<SNSの誹謗中傷>(前編) 被害者を救う手だては?

2020年7月5日 05時00分 (7月6日 11時30分更新)
 会員制交流サイト(SNS)で、嫌な思いをしたことはありませんか。SNS上で誰かの悪口を言い、傷つける匿名の誹謗(ひぼう)中傷が問題になっています。被害に悩んでいたプロレスラー、木村花さんの死をきっかけに、国は被害者を救う方策について、月内に方向性をまとめます。どんな手だてがあるのか、一緒に考えてみましょう。 (福沢英里)

標的 多くは女性

 エッセイストの小島慶子さんは、アナウンサーとしてテレビに出始めた二十五年前から、さまざまな誹謗中傷を受けることがあった。手紙やファクスに書かれた容姿や振る舞いをののしる言葉を浴びるうちに、「自分が悪いのでは」と責めるように。患っていた摂食障害が悪化した。
 「人は自分の見たいようにものを見て、個人の感情を直接、ぶつけてくる」。近年はツイッターで発信するが、「ババア」「死ね」といったリプライ(返信)が書き込まれたことも。「心の中に否定的な感情が湧くことはある。でも、それをどう扱うかがその人の価値を決める」。親として、中高生の子どもたちにそう話している。
 オンラインハラスメントと呼ばれるネットでの誹謗中傷は女性が被害にあうケースが多く、世界共通の課題だ。国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」が二〇一七年に公表した米英など八カ国の女性約四千人を対象とした調査では、四人に一人がネット上の暴力や嫌がらせを受けた経験があった。
 国内の相談件数は増加傾向にある。総務省の違法・有害情報相談センターには一九年度で五千百九十八件。一〇年度のおよそ四倍に増えた。

発信者特定に壁

 だが、被害の回復は簡単ではない。同センターが助言した対応手段をみると、SNS事業者などへの投稿の削除要請は八割超だが、損害賠償請求に必要な発信者情報の開示請求は一割に満たない。
 発信者情報の開示には、プロバイダー責任制限法で定められた「投稿による権利侵害が明らかな場合」という要件をクリアしなければならない。多くの場合、裁判手続きが必要となり、ずっと壁が高い。
 匿名の投稿に対し、損害賠償を求めるには、(1)投稿者の特定につながるIPアドレスの開示(2)投稿者の特定(3)賠償責任の認定−と三段階の裁判が必要。時間と費用がかかるために泣き寝入りする被害者がいるのに対し、発信者は「表現の自由」などを理由に責任を免れているのが実情だ。
 総務省は、事業者の開示情報に電話番号を加え、投稿者の特定を容易にする方策を検討。自民党からは、侮辱罪など刑事罰の厳罰化を求める提言も出ている。

「事前規制」の是非 高校生が討論

 中高一貫の自由学園男子部(東京都東久留米市)の生徒が6月、SNSの誹謗中傷を防ぐ規制について考える国語の授業に臨んだ。
 日本は現在、被害の発生後に削除要請などで対処する事後規制を取るが、生徒たちは特定の表現を禁止する事前規制について検討。「嫌な思いをする人が減る」「利用者の意識が高まる」などの声が出た一方、「権力者にとって不都合な発言を制限されるかもしれない」と懸念する生徒もいた。
 高2のクラスで行われた討論では、事前規制を主張していた生徒が「何が誹謗中傷にあたるのか、判断が難しい」などの理由で、慎重な姿勢に転じた。授業を企画した高野慎太郎教諭は「何が誹謗中傷にあたるのか、誰がどう判断しているかを見極めてほしい。同時にSNSを利用する側がそれを判断できるような力を育てることも大切」と話している。

 プロバイダー責任制限法 インターネット上で人権や著作権を侵害された被害者を救済するため、プロバイダー(接続業者)などの責任を定めた法律。匿名の投稿による権利侵害が明らかで、損害賠償請求するために必要な場合、被害者はプロバイダーやサイト管理者に投稿者を特定する情報の開示を請求できる。


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