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川勝知事・JR東海の金子社長会談 記者座談会(下)

2020年7月4日 05時00分 (12月27日 17時14分更新)

川勝平太知事(左)とJR東海の金子慎社長。2人きりの会談は最後まで動画配信された=6月26日、県庁で

 −六月二十六日のトップ会談。JR東海の金子慎社長はどんな覚悟で臨んだのだろう。
 五十幡将之 気になったのは最終盤の一幕。金子社長は、苦笑しつつ「ヤード(作業基地)の話がご了解いただけなかったのは残念」と自ら白旗を揚げ、対談を終えようとした。
 川勝平太知事に三度、トップ会談を断られ、「事態が打開できるなら会う」と斜に構えていた社長が、知事に熱心にラブコールを送り始めたのは、国土交通省の水嶋智鉄道局長が四月にその必要性に触れてから。会談では、ヤード整備着工への理解を求めて幾度となく食い下がったが、基本的には「お願い」ベースにとどまった。着工の了承をつかみ取るまでは是が非でも帰らないというような気概は見えなかった。
 以前の会見で社長に「『二〇二七年開業ありきではない』とする知事に、工期が切迫した状況を伝えても無意味ではないか」と質問したことがあるが、やはり知事に訴えは届かず。「二七年開業は必達」の立場の国や沿線都府県に対し、知事と対談したというアリバイだけは残した印象だ。
 −知事は、新型コロナウイルスがまん延した時代にリニアがふさわしいのかも問題提起しようとした。
 大杉はるか コロナ禍で生活様式や意識が変化する今、リニアをどう見るか。本紙のインタビューでリニアの必要性に疑問を投げ掛けた水野和夫法政大教授ら三人の意見を、知事は取り上げた。「リニアは駄目だという人が出てきている」と水を向けたが、社長は「ちょっと異論がある」と言っただけで、取り合わなかった。新たな状況をどう受け止め、対応していくのか、議論が深まることはなかった。
 −双方の協議が難航している理由を端的に。
 広田和也 最大の争点は、トンネル工事による大井川の流量減少。JRは何も対策を取らなければ毎秒二トンの流量が減ると試算し、ただ、湧水を戻すことで流量や地下水に影響はないと主張する。県側は大井川流域に住む六十万人が利用する「命の水」が減ることを懸念し、JRの説明には説得力がなく、安心できないと訴えている。
 −トンネル工事で水が減った前例は確かにある。トンネル工学的には結局、掘ってみないと分からないことも多いのでは。
 五十幡 知事が会談で「水を戻せない場合はどうするのか」と迫った際、社長は「乗り越えられる技術があると信じている。ポジティブに考えている」と応じていた。
 多くのトンネル工学者は湧水を全量戻すことは非現実的とみている。JRは従来、「全量を戻す工法は全てリスクが高く、適切ではない」と強調してきたのに、都合が悪くなると「技術を信じている」と言うのは二枚舌とのそしりを免れない。トンネル工学は実際に掘りながら困難や課題を克服し、技術を磨いてきた。時に技術の可能性を信じ、時に技術の限界を持ち出す姿勢のままでは、県民の理解は得られない。
 −流域市町は、トップ会談をどう見たのか。
 大橋貴史 島田市の染谷絹代市長は「明確に伝えるべきことが伝えられず、核心を突く議論にならなかった」と不満をにじませ、まるで時事放談と評した。会談後は涙ぐんで記者に対応していた真意を後日、確認すると「今ある水を今後も守りたいだけなのに、力のなさを実感して、つい…」と漏らした。水に対する地元の思いを伝える役目を、知事が十分に果たしたとは感じなかった。
 −社長は会談で「着工から試運転の終了まで七年五カ月」と工程を明かしたが、これが事実なら二七年の開業はもはや物理的に不可能。トップ会談をお膳立てした国交省も含めて、これからの流れは。
 広田 国交省の水嶋局長は知事と社長に「腹を割って話すべきだ」とずっと会談を求めていた。赤羽一嘉国交相は「実現したことは大変有意義」と評価したが、会談の中身自体には「私から申し上げる立場にない」と一歩引いたコメントだった。国交省が今後、より深く関わっていくのかに注目したい。
 JRは近々、社内手続きに入り、「開業の延期」を表明するとみられている。国交省の有識者会議は引き続き、大井川の流量減少や南アルプスの環境保全を議論する。基本的には論点を整理する役割。何らかの結論が出たとしても、そこから再び、県とJRの協議が待っている。先は長い。

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