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川勝知事・JR東海の金子社長会談 記者座談会(上)

2020年7月3日 05時00分 (12月27日 17時15分更新)

◆ぼやけたヤード整備

和やかに金子慎社長を出迎える川勝平太知事(右)=6月26日、県庁で

 リニア中央新幹線の南アルプストンネル(静岡市葵区)工事を巡り、六月二十六日に県庁であった川勝平太知事とJR東海・金子慎社長のトップ会談。社長が六月中の着工を求めていたヤード(作業基地)整備に知事は同意せず、二〇二七年のリニア開業に赤ランプがともっている。大きな節目となった会談を本紙記者たちはどう見たか。二回に分けて紹介する。 (豊田雄二郎)
 −率直に会談をどう見たか。
 牧野新 進展はなかった。知事も社長も歩み寄りはなく、互いの主張をただ言い合っただけとの印象を受けた。社長は各工程にかかる期間から逆算して「二七年開業にぎりぎり」と訴えたが、二七年開業でなければならない説得力のある理由は明示できなかった。
 広田和也 知事がヤードの着工に同意するかが最も注目された。知事は流域市町の首長と「ヤード整備は本体工事と一体」との認識で一致させたのだから、当然、社長に同意しないことを明確に伝えると思っていたが、そうではなかった。県外から詰め掛けた報道陣は知事の言動に疑問を持ったようだった。
 大杉はるか 社長の責任は、事業を予定通り進めること。知事の責任は、大井川の水や生態系、環境を守ること。インターネット中継により、この対立を可視化し、全国的な関心を高めたことは一番の成果だったと思う。二人が唯一、認識を一致させたのは「リニアと環境の両立」。両者がようやくスタート地点に立った印象を受けた。
 五十幡将之 金子社長は総じて従来通りの説明に終始し、戦略的な交渉を試みる姿勢が感じられなかった。会談が一時間の想定の割には話題も多岐に広がり、互いに行き当たりばったりの懇話会という印象だった。収穫があったとすれば、信頼関係の構築。和やかな雰囲気で、知事が社長の立場をねぎらう場面もあった。会見を通じ間接的にけん制しあってきた両者にも一定の信頼は生まれただろう。
 −広田記者も指摘した通り、知事は会談で「ヤード整備は本体工事と一体」との認識を示さなかった。
 広田 結果、現場は混乱し、知事が会見を二度開く異例の状況で、やっと本音が聞けた。どうして社長に告げなかったのか。知事は、社長に気遣って明言を避けたのか、県外からの「静岡のせいで工事が止まっている」という批判を避けたかったのか。いまだ真相は分からない。
 五十幡 知事は会談でヤード整備に同意したとも受け取れた。県としては、会談を機に自らの主張の正当性を全国に伝えようとしたが、知事が「不同意」を明言しなかったことで論点はぼやけた。金子社長も勘違いしたまま帰るなど、双方に後味の悪い会談となった。
 大杉 知事は、開業の遅れを県の責任にされることを気にしていた。県自然環境保全条例上の協定手続きを持ち出し、すぐにでもヤード整備に着工できるかのような「かく乱」をしたのも、「知事が拒否したから」と言われないようにするためではないか。
 −会談後、知事は二度目の会見で、ようやく「ヤード整備は認められない」と明言した。この間、何があったんだろう。
 広田 確かに社長は条例の手続きさえ踏めば、ヤード整備ができるとの理解を示して県庁を後にしてしまった。会談を傍聴していた報道陣もそう理解した。
 知事は一度目の会見でも「ヤード整備は認めるのか」の問いに会談同様、明言せず、「担当者に条例を説明させる」と珍しく会見を途中で打ち切った。くらし環境部の担当者は「知事は同意しないのを前提に話をしていた」と説明したため、報道陣が「本当にそうなのか、ならば知事の口から聞く必要がある」と二度目の会見を要求して、知事が再度説明することになった。あのままでは「着工に同意」との報道が世に出て、翌日に訂正を余儀なくされるおかしな話になっていた。

◆川勝知事、リニア前向き35%

 一時間二十分に及んだトップ会談で、二人はどのテーマにどれだけ時間を割いたのか。本紙が分析した。
 金子社長が最も時間を使ったのは、やはり「ヤード整備への理解」(全体の26%)。二〇二七年の開業は沿線都県の総意であることや、東海道新幹線のバイパス(迂回路(うかいろ))としての必要性に40%を割き、補強材料とした。ヤード整備一点に絞って事態を打開しようとする狙いが数字でも裏付けられた。
 川勝知事は会談前、「有識者会議の結論が出るまで工事は認められないという流域市町の意見をしっかり伝えたい」と語ったが、最も時間を割いたのはリニアとJR身延線や東海道新幹線を結び、リニアを観光に活用する富士山一周の提案(全体の18%)。リニア計画自体への賛意も合わせ、35%をリニアに対し前向きな話に使った。
 島田市の染谷絹代市長は「交渉ではなく、時事放談のよう」と会談を評した。確かに数字からみても知事の話題は多岐にわたっており、「命の水」と位置付ける大井川の重要性の話は10%にとどまった。 (五十幡将之)

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