家康とそうめん谷 庄内村のお百姓が谷川で冷やし出す

2020年7月2日 05時00分 (7月20日 14時47分更新)

◆戦い敗れ空腹「力がうせた」

 夏の盛りのことです。
 戦いに敗れた徳川家康は、庄内村の和田(今の浜松市西区庄和町)まで逃げ延びました。太陽が容赦なく照りつけ、吹き付ける熱風の中を駆け抜けてきた家康は、全身汗まみれです。
 畑仕事をしていたお百姓が一息つこうとした時、鎧を着けたままの家康が目の前に倒れ込みました。
 「一日何も食べずに戦った揚げ句、負け戦。この暑さで目もくらむ。もはや立ち上がる気力もうせた」
 家康がつぶやくのを聞きつけたお百姓が、仕事の合間に食べようと谷川で冷やしておいたそうめんを差し出しました。
 「百姓のまかないで申し訳ありません。せめて冷たさだけでもお気に召せば」
 家康は器を持つと、そのひんやりとした手触りに、にっこりしました。
 「おお、これはいい。ほおずりしたいほどだ」
 お殿様に失礼ではないかと戸惑っていたお百姓は、ほっとしました。
 「ところで、これは何という食べ物だ」
 普段お城で過ごす家康にとって、初めて見る食べ物だったのです。
 「そうめんと申します。私ども百姓にとって、暑い夏一番のごちそうです。当地の名物でもございます」
 家康は、うなずきながらも「どうやって食べればいいか、教えてくれ」と頼みました。
 「箸で数本すくい、つけ汁につけてください。あとは、一気にすするだけです。つるつるっとしたのどごしを、きっと気に入ってくださるはずです」
 家康は言われたままに、そうめんを食べ始めました。すするたびに、冷たさとおいしさが口いっぱいに広がり、のどをうるおします。家康は、大喜びであっという間に食べ終えました。
 「そうめんのおかげで生き返った。感謝感激だ」
 家康は、お百姓にお礼を言うと、さっきまでとは別人のように元気を取り戻し、駆け出していきました。
 この日から、二人が出会った場所は「そうめん谷」と呼ばれるようになったそうです。

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