コロナ日記、記録の力 保育士、総菜店…危機下の思い刊行次々

2020年6月29日 16時00分 (6月29日 17時05分更新)
「絵本を読むときくらいはマスクを外したい」とつづる保育士の日記=「仕事本 わたしたちの緊急事態日記」から

「絵本を読むときくらいはマスクを外したい」とつづる保育士の日記=「仕事本 わたしたちの緊急事態日記」から

  • 「絵本を読むときくらいはマスクを外したい」とつづる保育士の日記=「仕事本 わたしたちの緊急事態日記」から
  • 書店に並ぶ「仕事本」=24日、東京都新宿区の紀伊国屋書店新宿本店で
 新型コロナウイルス感染拡大の中で多様な立場の人々がつづった日記が書籍化され話題だ。作家の日記を特集する雑誌が相次ぎ、日記本の専門店も登場。戦時中をはじめ危機の時代に存在感を示してきた日記に、あらためて光が当たっている。
 東京都渋谷区の出版社「左右社」で小柳学代表が日記の書籍化を提案したのは、政府が緊急事態を宣言した四月七日の朝。後世に向け危機を記録に残したいとの企画意図に「この状況でみんなどうやって働いているんだろう」「それぞれの働き方が関心を呼ぶのでは」と編集者の青柳諒子さんと筒井菜央さんが反応。有名無名は問わず、多様な立場の書き手をそろえるのが大事だと、翌日から社員総掛かりで執筆依頼に奔走した。
 作家町田康さんら一部の著名人に加えて、執筆が仕事ではないミニスーパー店員、ごみ清掃員、葬儀社スタッフ、保育士ら計七十七人が原稿を寄せ、六月にアンソロジー「仕事本 わたしたちの緊急事態日記」(二千二百円)が刊行された。
 手作り弁当が在宅勤務者に好評で「地味なことは打たれ強い」と静かな誇りを抱く福岡市の総菜店店主。都内のスーパーのパン売り場で働く女性は作業が増え「いい匂いだからいいけど時給は上がらない」とぽつり。日々の出来事に一喜一憂しつつ、仕事と向き合う彼らの二週間余の記録に小柳さんは「戦時中の日記がそうだったように、それぞれの言葉にパワーがある。日記は危機の時代に輝きを放つ」と語る。
 他にも文芸評論家川村湊さんが「新型コロナウイルス人災記」(現代書館)を刊行、作家円城塔さんらの「コロナ禍日記」(タバブックス)も七月発売に。文芸誌「新潮」「文学界」も日記を掲載し、非常時を言葉にとどめる試みが広がる。
 東京都世田谷区の下北沢には四月、古今東西の日記本などがそろう「日記屋 月日」が開店。下北沢の個性派書店「B&B」の共同経営者でブックコーディネーターの内沼晋太郎さんが店主だ。
 中学生の頃からよく日記を書いていた内沼さんは、書店に並ぶ自己啓発本への違和感から出店を計画したという。「未来に向け成長や行動をあおるのではなく、現在と過去、自分がやっている仕事や日々の営みに目を向ける方が幸せに近いんじゃないか」。日記がその手掛かりになると話す。
 開店とコロナ禍が重なったのは偶然だが、おかげで日記を書き、読む大切さを再認識できたと内沼さん。「日々の気持ちの変化も書き残しておかないと忘れてしまう。他人の日記を読むだけでも、他者への関心や想像力が深まるし、自分自身の思いも見直せます」
PR情報