ネット中傷 ちょっと待った

2020年6月21日 05時00分 (6月21日 10時11分更新)

◆20年以上「殺人犯」扱い スマイリーキクチさん

インターネット上の中傷被害の体験を語るスマイリーキクチさん=東京都新宿区で

 インターネット社会における「表現の自由」はどこまで許されるのか−。会員制交流サイト(SNS)上で匿名の誹謗(ひぼう)中傷を受けたプロレスラー、木村花さん(22)が五月に死去した。二十年ほど前、同じくネットの中傷被害に遭ったタレントのスマイリーキクチさん(48)は「投稿の内容を親や友人に言えるかどうか。クリックの前に自問自答して」と呼び掛ける。 (三宅千智)
 「殺人事件の共犯者」というデマを一九九九年からネットの掲示板に書き込まれるようになった。二〇〇八年に開設した公式ブログには「早く自首しろよ」「殺す」などのコメントが絶えなかった。同年、警察が本格捜査を開始。書き込みをした十九人を特定し、七人を書類送検した。
 警察や検察には計四十回ほど足を運んだ。「ネットを見なければいいのでは」とたらい回しにされることもあった。弁護士の相談料は四十万円近くかかった。「お金と時間に余裕がある人でないとできない。割に合わない」と、奔走した十年余前を振り返る。
 木村さんの死を受け、政府は、悪質な投稿者を特定しやすくするよう、情報開示手続きの簡素化など制度改正に向けた動きを加速させた。「やっと、という気持ちだ。人の命がいけにえにならないと国が動かないのは悲しい」と語る。
 投稿者を特定しやすくすれば、表現の萎縮につながるのではとの懸念も指摘されるが、「表現の自由は、何を言っても良いということではない。大勢で一人を攻撃するのは表現の自由とかけ離れている。批判をするのであれば、親や友人にその内容を言えるかどうか考えて」と訴える。
 いまもツイッターで殺人犯扱いされることがある。それでも「ネットを見るのは好き」と話す。「ネットじゃなければ知り合えなかった人もいる。車など共通の趣味の人とのコミュニティーができたり、イベントで顔を合わせたりできるのは『陽』の部分だ」
 自身もツイッターやブログで情報発信している。ネット中傷の被害者だけでなく、加害者からも相談が舞い込む。「若い加害者は『いまでも後悔している。すごく苦しい』と。誹謗中傷するとろくなことはない。加害者の心も傷ついてしまう」

 <スマイリーキクチさん> 本名・菊池聡。1972年生まれ。東京都出身。93年にお笑いコンビ「ナイトシフト」を結成。94年に解散し、現在は1人で活動。「爆笑オンエアバトル」(NHK)や静岡県のローカル情報番組などに出演。ネット中傷被害の経験を書いた「突然、僕は殺人犯にされた」(竹書房)を2011年に出版。各地でネットとの付き合い方をテーマに講演している。

◆静岡大 小谷教授

 表現の規制に詳しい静岡大の小谷順子教授(憲法)は「『死ね』『消えろ』などが表現の自由として保障されるかどうかは文脈次第だ。『殺す』よりはグレーゾーンだが、相手の心を傷つける言葉であるだけでなく、文脈によっては名誉毀損(きそん)や侮辱に当たる可能性もある」と述べる。
 行きすぎた規制への懸念も指摘し、「『(匿名ブログの)保育園落ちた日本死ね』は、日本の子育て環境へのフラストレーションを端的に表した。過激な言葉の規制が過ぎると、意見や不満を伝えるすべを奪うことにつながりかねない」と語る。
 静岡県警サイバー犯罪対策課によると、ネット上の中傷や名誉毀損の相談は二〇一九年に約百二十件、一八年に約百六十件寄せられた。「事実と違うことを書かれた」「ネット掲示板に裸の画像を掲載された」などがあるという。担当者は「嫌がらせや迷惑行為など、悪質なものは積極的に取り締まる」としている。

関連キーワード

PR情報