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リニア着工 元中央環境審議会長、浅野福岡大名誉教授に聞く

2020年6月18日 05時00分 (12月27日 19時18分更新)

◆脱炭素に逆行では

浅野直人・福岡大名誉教授

 大井川の流量減少など南アルプスの自然環境への懸念のほか、大量の電力を消費するリニア中央新幹線はどう考えるべきか。環境影響評価(アセスメント)に詳しい元中央環境審議会長、浅野直人・福岡大名誉教授に聞いた。福岡市の自宅とビデオ会議アプリを使って静岡を結び、インタビューした。 (聞き手・大杉はるか)
 −環境アセスの意義は
 危険を予見して回避するという「未然防止原則」を環境政策に取り入れることになっている。環境への影響を最小化するため、事業の前に調べ、結果を公表し、意見を聞き、必要な措置を講じないといけない。
 −リニアの静岡工区は環境アセスで大井川の流量減少の可能性が報告され、県とJR東海の協議が続く。環境アセスに工事を止める権限はあるのか
 工事の合否を判定する権限はない。唯一の歯止めは国土交通相の許認可。環境アセス法は許認可時に環境保全への考慮を求めている。国交相は環境、必要性、経済性などのバランスを取った判断を求められることになる。
 −国交相は二〇一四年十月に着工を認めたが、静岡工区だけは未着工
 環境影響評価書に対する当時の環境相意見は「河川の生態系に不可逆的な影響を与える可能性が高い。これほどのエネルギー需要が増加することは看過できない」と厳しい。地元自治体や住民の理解なしに「実施することは不可能」とも触れている。
 あんな厳しい意見は、石炭火力以外で見たことがない。環境相に許可をひっくり返す権限はないが、JR東海も無視はできない。一定の歯止めになる。十分な説明もなしに工事を進めれば、県が訴訟を起こすことも論理的にあり得る。

ビデオ会議アプリで本紙の取材に答える浅野直人福岡大名誉教授=静岡市葵区で

 −リニアは国家的プロジェクトともいわれる
 環境審議会で、リニアのように複数県にまたがる事業に今のアセス法の枠組みで対応できるか、疑問を呈したことがある。アセスの審査は県ごとのため、対応がバラバラになる可能性がある。県によっては見逃す恐れもある。二〇一一年のアセス法改正時に関係県による連合審査が必要でないかと主張したが、法制化は実現しなかった。
 −環境アセスを経ても環境に影響が出ることも
 予測には限界がある。何か起きたときに対応できる余地を残す、事後調査が必要。事業者は分からないことは「分からない」と正直に言うべきだ。分からないのに工事をして、「壊れたら仕方ありません」というのはおかしい。
 −新型コロナがまん延している
 一時的に経済活動が収縮し、温室効果ガスの排出量は減る。これで安心し「脱炭素」の動きが鈍ることがが心配だ。コロナで低減したから、環境配慮はゼロでいいとなってしまうのがとても怖い。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスを二〇五〇年にゼロにしようという時代に、リニアが許されるのか。風力や太陽光で走らせるというのならいいのかもしれないが…。

 あさの・なおひと 1943年、名古屋市生まれ。66年九州大卒。80年福岡大法学部教授、93年中央環境審議会委員、2015〜17年同会長。1993年の環境基本法や97年の環境影響評価(アセスメント)法制定に関わったほか、環境基本計画は第1次から現行の第5次まで手掛ける。


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