<EYES> エッセイスト 小島慶子 弱者の現実 移住し痛感

2020年6月11日 05時00分 (6月11日 11時10分更新)
 教育目的でパースに移住した当初の話に戻ります。新生活を始めるにあたって助けになったのは、日本人の留学エージェントでした。学校から住まい探し、病院やスーパーマーケット事情まで、家族ぐるみで親身にサポートしてくれたエージェントの存在は心強かったです。
 私たちは、いわゆる企業の駐在員ファミリーと違い、守ってくれる会社がありません。息子たちは、日本に戻ることを前提に学ぶのではなく、現地で生きていくために学ぶ必要がありました。何十年も現地に根を下ろしている日本人永住者の助けがなければ、新生活を無事に立ち上げることはできなかったでしょう。
 もう一つ、同じようにオーストラリアにやってきたばかりの仲間たちとの出会いも大きな支えとなりました。息子たちが最初に通った公立小学校は、以前も書いたIEC(Intensive English Centres)という英語集中コース。ここで、世界中から集まった家族たちと知り合えたのです。みな言葉が不自由で、不安で、新生活への希望を抱いています。それを語り合い、自分たちは一人じゃないと思うことができました。
 順調に滑り出した移住生活ですが、夫と息子たちが新天地で日々コミュニティーに根を下ろしていく一方で、私は日豪行ったり来たりの渡り鳥生活。異なる二つの人生を生きることに。東京での私は社会にすっかりなじんでいますが、パースでの私は社会の新参者。人種としても少数派で、経済的な基盤もなく、とても弱い立場です。
 世界の移民や日本の外国人への処遇に対する諸問題が、人ごとではなくなりました。当事者となって初めて見える風景もある。世間知らずを痛感し、40歳を過ぎて、生まれ直した気分です。

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