【わがまちの偉人】金沢 がん患者の居場所つくった外科医 西村元一(1958〜2017年)

2020年6月11日 05時00分 (6月11日 10時17分更新)
西村 元一

西村 元一

  • 西村 元一
  • 夫が残した「元ちゃんハウス」で利用者を温かく迎える詠子=金沢市石引で

闘病傍ら 患者支える


 がん患者が安心して自分らしくいられる場所をつくりたい−。西村元一は医師として地域で患者を支える仕組みづくりに取り組む最中、自身もがんになった。闘病しながら、患者と家族が思いを語れる県内初の民間常設施設「元ちゃんハウス」(金沢市石引)を開設。患者が悩みを打ち明け、心を癒やすための居場所を提供する。(戎野文菜)
 温かな照明がともる室内は、白い壁に板張りの床、木の椅子とテーブルが並ぶ。料理教室に使うキッチンや個別相談の部屋もある。運営スタッフ二十人は医療者や栄養士、がんの経験者ら。うち数人が施設に常駐している。
 利用者を笑顔で迎えるのは、理事長を務める妻の詠子(61)。かつて看護師として西村と同じ病院に勤務した。
 大腸がんの治療と研究をしていた西村は「仕事一筋で、自分のことは後回し。患者のために一生懸命だった」。詠子は西村への尊敬を口にする。「家族のことも後回しだったけどね」と付け加えて笑った。
 患者の退院後の生活まで考え「医療者としてだけでなく人として何ができるか」を問い続けた。生活の場である地域で患者を支えるためには、介護職など多職種の連携が必要。特に死を意識するがん患者は、医師や家族の前では大丈夫なふりをして無理をすることもある。街中で気軽に思いを語れる場所が求められていた。
 金沢赤十字病院で在宅医療や地域連携を推進。社会福祉士や介護福祉士も参加する拠点「いしかわ921在宅ネットワーク」を病院内につくり、礎を築いた。同時に、英国の施設をモデルにして、がん患者の居場所づくりにも取り組んだ。
 忙しく活動していた二〇一五年三月、診察中に気分が悪くなりトイレで下血。「進行胃がん。治療しなければ、余命は半年」と宣告された。闘病生活では死を意識した。自身が患者に処方してきた抗がん剤の副作用も身をもって知った。
 患者の立場を知る医師として、西村は詠子とともに全国二百カ所で取り組みを講演。先々で寄付を募り、一六年十二月、元ちゃんハウスの開設がかなった。
 亡くなる少し前、元ちゃんハウスのスタッフ全員へメールが届いた。「負担に感じ、しんどくなったら閉じてもいいよ。全国に一つでもこれに似た施設ができれば、役割を果たしたことになるから」
 ハウスには現在、年間約三百人が見学に訪れる。似た取り組みは新潟市でも生まれ、徳島県や山口県でも新設の動きがあるという。思いはつながり、今でも多くの人を動かし続けている。 =敬称略
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 次回は穴水町の食文化などに影響を与えた地元の実業家、森本藤四郎(一八八二〜一九八四年)を紹介します。

【プロフィール】にしむら・げんいち=金沢市出身。金沢大卒業後、外科医として同大病院に勤務。2009年から金沢赤十字病院副院長。13年に「がんとむきあう会」を創設した。58歳で死去。


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