そら豆の黒い筋 尻もち割れた傷、黒い糸で縫う 

2020年6月6日 05時00分 (7月20日 14時42分更新)

◆旅に出かけた 豆と藁と炭

 そら豆は、日当たりと水はけの良い土地を好み、浜松市でも古くから栽培されてきました。そら豆をゆでる母から何度か聞いた話を紹介します。
 昔、昔の話です。
 おばあさんが、そら豆の料理を作り始めました。鍋に入れようとした時、一粒こぼれ落ちました。
 「一粒ぐらい、仕方ない」
 たきつけの藁を運ぶと、一本抜け落ちました。
 「一本ぐらい、仕方ない」
 かまどで火をたくと、一かけらの炭が外に転がり落ちました。
 「一かけらでも、火事になっては大変。燃えてなければ仕方ないか」
 おばあさんがつぶやいていると、風に吹かれたそら豆と藁と炭は、庭の隅へ舞っていきました。
 一粒のそら豆と一本の藁と一かけらの炭は、食べられることも燃え尽きることもなく、生き延びることができました。
 「こんなにうれしいことはない。おばあさんが『死ぬまでに一度でいいからお伊勢参りをしたい』と言っていたけど、みんなで行ってみないか」
 相談がまとまると、さっそく旅に出ました。
 しばらく行くと、腹を空かせたネズミが立ちふさがりました。そら豆をくわえようとした時、炭が真っ赤に体を燃やし、ネズミを追い払ってくれました。
 遠くに土手が見えてきました。駆け上がると、色とりどりの花が咲き乱れていました。きれいな川が流れ、ウキウキしながら歩きましたが、どこまで行っても向こう岸に渡れません。
 「今度は俺の出番。向こう岸まで背伸びして橋になるから、俺の上を歩けばいい」
 藁の橋が出来上がると、そら豆は、炭に先に渡るように声を掛けました。
 「助けてくれた炭さん。お先にどうぞ」
 炭は、藁の橋を渡り始めましたが、ユラユラ揺れて進めません。譲ってくれたそら豆や橋になってくれた藁の気持ちを考えると、情けなくなってきました。体中が見る見るうちに真っ赤になると、炎を噴き出しました。火が藁に燃え移って、炭と藁は川に落ちてしまいました。
 突然の出来事にそら豆がびっくりして尻もちをつくと、豆の皮がパチンと割れてしまいました。藁も炭も流されてしまい、このままでは死んでしまうと、そら豆は泣き出しました。
 偶然通りかかった娘さんは、割れた所を縫ってやろうと、手提げ袋から針と糸を出しました。
 「あいにく黒い糸しかないけど、傷はふさがりました。もう大丈夫」
 そら豆には、今でも黒い筋が残っています。

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