中日文化賞 作家 中村文則氏

2020年5月3日 11時09分 (5月28日 11時12分更新)

現代日本文学をけん引、本紙への貢献 「生きづらさ」言葉に

作家 中村文則氏

 「今、世の中がどんどん悪くなっているという危機感がある。それを書かないのは読者への裏切りだと思う」。自作に政治的なテーマを織り込むことをためらわず、忖度(そんたく)一切なしの鋭い発言でも知られる「物言う作家」だ。
 不登校だった高校時代、文学に出合い、大学で就職活動に悩んでいる時に小説を書き始めると、次々に言葉が出てきた。フリーターをしながら純文学作品の執筆を続け、2002年に「銃」で、新潮新人賞を受賞してデビュー。05年、虐待を受けた過去を持つ青年が主人公の「土の中の子供」で芥川賞を受賞した。
 人間の「悪」の側面が容赦なく描かれる作品の根底には「人間とは何か」という問いがある。「それは、僕がずっと『生きづらい』という感情を抱いていたから。でも、その『生きづらさ』を、誰しも多かれ少なかれ感じているはず。そういう人に向かって、必要な言葉を届けたい」
 本紙朝刊で連載された最新刊「逃亡者」では、戦時中の性暴力や、現代の移民と技能実習生などの社会問題に切り込んだ。「少しでも人々が融和の方向へ向かうように、との思いを込めた。新型コロナウイルスの感染拡大により、差別的な意識が増大することを懸念している。作家として必要なことができたと思う」
 作品は世界で翻訳され、広い読者を獲得している。ノワール(暗黒小説)の書き手として評価され、米国の文学賞も受賞した。「コロナ禍の後のことも考えなければいけない。世界が受けた傷の修復につながるような言葉を紡いでいきたい」。愛知県東海市出身、東京都在住。42歳。(東京文化部・樋口薫)

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