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【家族になろうね~特別養子縁組で子どもを迎えて~】番外編・民間養子縁組あっせん機関「ベアホープ」赤尾さく美理事インタビュー

2022年8月4日 17時00分 (8月5日 16時12分更新)
 民間の養子縁組あっせん機関の一つ、一般社団法人「ベアホープ」(東京)を立ち上げた1人である赤尾さく美理事にオンラインで話を聞いた。

民間の養子縁組あっせん機関「ベアホープ」の赤尾さく美理事(本人提供)

 赤尾さんは「全国妊娠SOSネットワーク(全妊ネット)」理事も務め、予期せぬ妊娠に悩む女性を支え、特別養子縁組までつなげる取り組みを実践してきた。民間機関と、児相を通じた特別養子縁組との違いや養親の心構えについて率直に語ってくれた。生みの親と育ての親が団体を通じて交流を続ける「セミオープンアダプション」の取り組みなど、学ぶべき点が多かった。(北陸本社報道部・奥田哲平)
 ーベアホープを立ち上げ、妊娠葛藤相談や特別養子縁組あっせんに取り組むことになった経緯は。
 立ち上げは2013年。私とロング朋子(現代表理事)が出会ったのがこの年の5月。名古屋市中川区にある「ライフホープネットワーク」(予期せぬ妊娠の女性をホームステイで受け入れ、出産まで支援する団体)のシンシア・ルーブルさんを通じてです。ビジョンを語り合い、ビジネスでもなく素人のボランティア団体でもない、プロフェッショナルだけど、愛に基づいたソフト面とクオリティー面が両立した養子縁組民間あっせん機関をつくりたいというところで一致しました。
 私は名古屋大での研究を通して民間あっせん機関の方々と出会い、当時の日本の妊娠葛藤相談や特別養子縁組の現状・課題を学んでいました。ロングは児童相談所の里親制度や養子縁組についての課題を感じ、実際里子を迎えており、一時的な社会的養護ではなくパーマネンシー(恒久的な家庭)の保障の意義を実感していました。2人で新しい民間あっせん機関を立ち上げるため、私は名古屋大を辞めて東京に行きました。
 東京に引っ越すにあたり、日本財団が声をかけてくださり、チームに入れていただくことになりました。全国の妊娠葛藤相談窓口の質を向上し、妊娠して悩んでいる人が、どこに住んでいても公平に情報提供を受け、匿名でも相談ができて、地元での支援につながっていく仕組みづくりや研修をやりたいと財団の中で提案し実現しました。
 2014年から3年間ほど日本財団にも所属し、全妊ネットの立ち上げにつながる研修を15年に開催、妊娠葛藤相談対応のガイドブックを作り、専門職向けの研修を全国展開していきました。そのノウハウが、ベアホープにも生かされ、ベアホープのノウハウが研修にも生かされていると思います。
 ー妊娠葛藤相談ができる場所がしっかりしてこそ、特別養子縁組につながっていく。一つの流れですね。
 ベアホープでは現在年間300件以上の妊娠葛藤相談がありますが、実際に特別養子縁組で委託に至る人は約10分の1です。私たちは養子縁組じゃないと相談を受けませんというスタンスではなく、あらゆる情報提供をし、育てたいならその準備をしていくことを勧め、支援があれば養育をしていきたいなら、公的支援につないでいきます。
 ー養子縁組あっせんに至るまでの流れを教えてください。
 大まかな流れは児相と変わらないと思います。研修受講と審査申し込み、家庭訪問、マッチング、委託してアフターフォローです。ただ、ベアホープは各プロセスがとても丁寧だと思っています。書類審査では、社会福祉士や医療職、心理職がいるので、多職種の視点で審査し、家庭訪問での初回インタビューに5、6時間はかけます。夫婦が分かれての時間、一緒の時間があり、内容も半構造化面接(あらかじめ決めた質問をした上で、反応に応じて質問を変えながら行う面接方法)にしています。家庭環境や夫婦関係も客観的に審査していきます。
 完璧な夫婦はいませんので、何らかの課題が出てくる場合は、その課題に応じた個別研修を改めて組むこともあります。例えば、夫婦のコミュニケーションの課題、家計管理の課題、健康管理の課題、育児・しつけの課題などに対するより具体的な研修です。
 ー審査に申し込んだ人を、書類やインタビューを経て断る場合もあります。
 そういった夫婦もおられますし、養親研修を受けて、自ら退くという方もおられます。バラ色のハッピーな子育てを想像されている方は、社会的養護下にある子どもたちの背景がどういうもので、どれぐらい社会的・身体的ハイリスクに結びついているのかを聞くと、ちゅうちょすることがあります。
 実親さんと子どもの背景も全部ひっくるめての親になるということなので、あらゆる病気、障害、実親さんの背景を理解し、さらに真実告知して子どもにも周囲にも隠すことなくオープンにしていく必要があります。
 周りにもし何か言われても、子どもを守るのは自分たちなんだという自覚を持つ必要もあり、夫婦にとっては大きな決断になると思います。
 ー児相経由の特別養子縁組の場合、家庭裁判所の審判が確定して以降は基本的に家庭訪問がなくなり、どうしても関わりが薄くなります。養親が孤立してしまうという課題もあります。
 ベアホープでは、委託後のアフターフォローも子どもが16歳になるまで続いていきます。養親同士の横のつながりも盛んな仕組みになっています。ベアホープの養親さんが使えるLINEやZoomを作ってありますが、あとは養親さんたち自身で自発的に誘い合ってつながっていかれます。
 LINEグループに全員入り、地域や同じ学年になる子どもたち、同じ月に生まれた縦割りのグループ、同じ沿線在住や、同じ研修を受けたとか、いろいろなつながりが自発的にできています。毎月のお誕生日会もあります。
 ベアホープのクローズドのSNSも自発的につくられ、そこに先輩の養親さんたちが情報をアップし、後から入った方も見えるようになっています。
 コロナ禍でZoomが盛んになっていて、これから小学校に入る子どもの親たちの夜のカフェは、夜中までずっと親同士でしゃべっているそうです。私たちが全部仕掛けているわけではなく、養親さんたちの積極性にこちらも助けられています。委託後に出てくる課題や苦労はもちろんあるので、ベアホープが研修という形でも、個別でも伴走していくような仕組みもできています。
 ーこれから養親を目指す人、社会的養護に関心を持っているような人が知っておくべき、子どもや実親が抱える社会的背景について詳しく教えてください。
 研修の中でも盛り込まれる部分です。社会的養護下にある子どもたちは、基本的に胎内環境が悪いです。ストレス下にもちろんあるし、アルコールやたばこ、薬物をしていたかもしれない。虐待をされていたかもしれないし、DVを受けていたかもしれない。食べるものもじゅうぶん食べてなかったかもしれない。妊婦健診も受けてないし、飛び込み分娩(ぶんべん)かもしれない。その後頑張って育てたけども、ネグレクトだったかもしれない。そういう子どもたちなんだという背景があります。
 健康な新生児だけを求めたいのであれば、特別養子縁組はあまりお勧めしません。子どもの福祉のための制度なので、そういう背景の子どもだからこそ、家庭で養育される必要があるという視点に立って、家庭を提供してほしいとお伝えしています。
 ー特別養子縁組は新生児が多いのですか。
 新生児は多いですが、新生児とは限らないです。既に施設で養育されている子どもや、病院から行き先がなく退院できない子ども、頑張って実親さんが育ててみたけどもう無理となったのが3歳かもしれないし、5歳かもしれない。いろんなケースがあるので、年齢や性別、元気な子といった条件を付けるものではないということは研修でお伝えしています。

Zoomで取材に応じる赤尾理事

 ー養親を目指す人にとっては、民間あっせん機関は費用がかかり、児相はほぼかからないのが実態。その違いが気になる人も多いでしょう。
 児相は無料、民間はお金がかかるという構造ではないです。児相での特別養子縁組の人件費や諸経費、委託までの子どもの施設養育にかかる膨大な費用は税金で賄われています。民間あっせん機関の運営は、税金で賄っているわけではありません。しかも、専門性の高い支援を継続的にやっていくためには、一番人件費がかかります。手数料を取るのは法的に認められているので、その範囲の中で費目をつけて徴収します。費用の安い高いが、良い悪いという感覚で判断されることがないようにと願っています。
 もちろん透明性が求められるので、何のためにいくら使っているのかは養親さんに提示しています。「養親希望者手数料負担軽減事業」の実施により、養親希望者が民間あっせん機関に支払った手数料について、都道府県が養親さんに対して40万円を上限で補助する制度もありますが、実施している県が少ないのが現状です。
 ー児相ではあまり行っていない「セミオープンアダプション」に取り組んでいますね。
 ベアホープでは、実母さんが希望すれば、子どもの委託後も実母さんと養親さん・子どものつながりを、ベアホープを通して保つセミオープンアダプションを行っています。
 ほとんどの実母さんは、その背景に関わらず子どもへの愛情が少なからずある中で委託していきます。自責の念や辛さがある中で、実母さんが人生の再スタートをしていくにあたり、子どもが養親さんや親族に愛されて育っている様子を見ることで、自分がしたことは間違ってなかったんだと消化していく手助けとなる面もあります。
 いつかまた会うかもしれない子どもや、応援してくれる養親さんとつながり続けることで、以前とはちがう生き方を選択していく実母さんもおられます。養親さんにとっても、実母さんは家族のようなものなので、例えば地震や台風があると、「○○さん、大丈夫ですか?」とLINEが行き交うことが多々あります。
 家族や親族のように、「あなたのことを心配しています」「元気でいてほしい」「あなたのおかげでこの子がいることをいつも感謝しています」「いつもあなたのことを話しているんですよ」というような言葉が養親さんから来るので、私たちはそれを実母さんに届ける橋渡しをしています。
 委託のときに実母さんが養親さんと会うことがかなわなかったとしても、希望すれば、ベアホープから委託の日に「おうちに着きましたよ」「今お風呂入っていますよ」とか、そういう写真をLINEで送ります。「健診に行きました。何グラムになっていましたよ」「こんなことができるようになりました」など、養育報告のたびに近況とともに写真や動画を送ったりしています。
 ー養親と実母が、直接やりとりするのですか。
 セミオープンなので、必ずベアホープを通してです。実母さんも、子どもの誕生日やクリスマスにお手紙やメッセージを送りたい場合はベアホープを通して送ることができます。それに対して養親さんも、お手紙やメッセージを送ったりというやりとりもあったりします。それが審判確定後は毎年のお誕生日月になります。その送り合いをお手伝いしています。
 途切れる人もいますが、委託前にお会いしていろんなお話を聞いていると、仕方がないと思う生い立ちを抱えておられる実母さんもいるので、養親さんにも理解していただき、その方の幸せを一緒に願っていただいています。
 ー委託された後のフォロー体制について詳しく教えてください。養子が16歳になるまで、養親に養育報告を提出してもらっているのはどうしてですか。
 子どもの成長に伴って生じる養育面の課題や真実告知の面からも、長く伴走しています。真実告知は委託の日からしていきますが、養親さんは実親さんについて、「○○さん、元気にしているかな」「産んでくれてありがとうだね」とか言いながら、子どもが小さくても実母さんのことを語りかけます。
 ただ、子どもには消化し切れないような背景を抱えた実母さんもいます。その背景については、大人の事情が消化できる年齢になってから伝えるようにし、実母さんに直接会う再会も、大人の事情や大人の反応を消化できる年齢になってからということで、子どもが成人してからとしています。
 養親さんとベアホープとの関係を続けることで、子どもが親とは話しにくい年齢、生意気なことを言ったりする年齢のときにも伴走したいと思っています。

ベアホープのホームページ

 ーやはりフォローが手厚いなと感じます。委託後に直面する課題についても研修会を開いているでしょうか。
 養親さん個々の課題に対しては個別対応をチームでしています。養親としてきちんと養育していないといけない、うまくいっていない部分をさらけ出してはいけないと思わずに、実は困っている、悩んでいるということを何でも話してほしいと思っています。それによってどのようにお手伝いできるのかを一緒に考えていくことができますので。
 今、毎月開催しているのは、委託後わりと間もない養親さんを対象に、タッチケア、おててサイン、離乳食などの講座ですね。あとは真実告知研修を毎年やっています。養親さんからのリクエストでベアホープが講師としてイベントに参加することもあります。
 ー子ども同士が交流する場はありますか。
 最初は親同士ですけど、小さい頃からよく会っている子ども同士は顔見知りになっています。例えばお誕生日会は大きくなった子どもが、企画の提案や司会をやったりしています。関東は養親さんが多いので直接集まりやすいですが、地方に行けば行くほど散らばっている傾向です。
 ただ、今はオンラインでいつでも会えるので、地域性より積極性によって親同士も子ども同士もつながりが広がると思います。どちらかというと、児相経由で委託された養親夫婦の方が孤立しているのではないでしょうか。審判確定すると里親会から離れていくことも多く、せっかく同じ管轄内に住んでいるのにもったいないですね。オンラインでも気軽につながっていく仕組みを児相でもつくっていかれるといいと思います。
 ー児相とは違う民間あっせん機関の役割や存在意義をどう考えますか。また、児相との連携も行っていますか。
 児相と民間との違いはかなりありますので、もちろん両者の存在意義があるでしょう。実親・子どもサイドでは、扱う妊娠や養育相談の数、希望、措置権の有無、コミュニケーションツールと対応の迅速性、管轄ありか全国対応か、人材の専門性と継続性、個々の実親に合わせた子どもとの関わりの継続性や希望への対応などがあります。
 養親サイドでは、研修内容、個別対応、審査の厳しさ、待機・委託のスピード、手数料を養親が払うか税金負担か、アフターフォロー、コミュニケーションツールと対応の迅速性などです。
 ベアホープでは、官民連携を積極的に行っています。児相から児相で委託ができないケースが紹介されてくることも度々あります。児相とベアホープで一緒に養親探しをして連携した例、ベアホープから一時保護を依頼した例もあり、いろいろな連携があります。

赤尾さく美(あかお・さくみ) 名古屋市立大看護短大卒、愛知県立看護専門学校卒の助産師、看護師、保健師。「みなと医療生協協立総合病院」助産師として勤務し、妊娠葛藤相談と特別養子縁組に携わった。国際NGOスタッフとして中央アジアで地域開発支援プロジェクトに取り組んだ経験もある。シンガポールで修士号を取得後、14年まで名古屋大医学部保健学科助教。13年にベアホープを設立、15年に全国妊娠SOSネットワークを立ち上げた。

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