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<町内会長日記 コロナ時代の共助> (47)日本語教室の灯を守れ 市営住宅と外国人(上)

2022年8月7日 05時05分 (8月8日 20時09分更新)
市営丸池荘で暮らす外国人の子どもたちに日本語や勉強を教える志村さん(左)と斉藤さん(中)=名古屋市港区丸池町1で

市営丸池荘で暮らす外国人の子どもたちに日本語や勉強を教える志村さん(左)と斉藤さん(中)=名古屋市港区丸池町1で

 今月下旬の夕方、北区の団地で町内会長を務める筆者(40)は、ブラジルを中心に外国人が多く入居する名古屋市港区の市営丸池荘を訪ねた。
 前回の当欄は市営住宅の高齢化を取り上げたが、外国人の割合も約10%で市平均の三倍近くの高さだ。言葉や文化が異なる外国人と、町内会はどう付き合っているのか。実情を探るため、市営住宅の丸池荘で週一回、開かれる日本語教室「まるいけスマイル」を見学させてもらうことにした。
 集会場をのぞくと、十五人ほどの外国籍の子どもが机に並び、平仮名を書き写したり、夏休みの宿題を解いたりしていた。ボランティアの学生や住民が隣でアドバイスする。「そう、完璧。パーフェクト!」。先生役の一人、名古屋大大学院生の志村理さん(30)が、親指を立てるしぐさをすると、来日して間もない女の子から笑みがこぼれた。
 その様子を穏やかな表情で見つめていたのは、今春まで十五年間も町内会長を続けた斉藤淳さん(75)。「町内会として情けない話ですが、実は今年の春で教室を閉める予定でした」。笑い声の絶えない教室を見て、順調に運営してきたのかと思ったが、違うようだ。
 斉藤さんによると、丸池荘は外国人世帯が二割弱を占める。教室は二〇一七年に町内会が立ち上げ、志村さんら学生の力を借りて維持してきた。だが、運営資金の柱だった公益財団法人の助成金が、今春から大幅に削減されることに。町内会のお金も投じてきたが、外国人は非加入世帯が多く、増額は周りの理解を得にくい。住民の高齢化で教室を開く負担も増してきた。斉藤さんはボランティアに「交通費も出せず、迷惑を掛ける」と閉鎖を伝えた。
 「交通費を当てにして来ている訳ではありません。続ける方法を探しませんか」。待ったを掛けたのは、移民の研究をしている縁で、長く教室を手伝ってきた志村さん。「ポルトガル語だけの世界にまた戻ってしまう…」。ブラジル人の教え子たちが頭に浮かんだ。
 町内会の無念さも、志村さんは理解できた。「この子は、教室には来てくれたけれど、あまり学校に行けていない」。登下校の見守りをしている斉藤さんたちは、そんな情報を耳打ちしてくれる。授業に追いつけない挫折感や、経済的な事情で昼夜を問わず働く親に代わって下の子の世話をする苦労…。大変さを理解する町内会が、彼らの居場所として守ってきたのが、日本語教室だった。
 存続を訴える志村さんに、ボランティア仲間も賛同してくれた。ほかの日本語教室のスタッフなど、支援の輪も広がり、六月から志村さんを代表とする有志グループで町内会の教室を受け継いだ。懸案の運営費は別の助成金を探し当て、生活相談や保護者との交流といった新たな構想も持ち上がる。町内会は集会場を無料で開放し、住民もお手伝いで顔を出している。
 「ここに住んでない人たちが、なぜ、情熱を注いでくれるのか」。最寄り駅までボランティアを送迎する車の中で、斉藤さんはふと考えるそうだ。志村さんの思いはどうか。「自分にとっても、いろいろな人と出会えて楽しい居場所。町内会には感謝しかないです」
 外国人はどう地域に溶け込み、住民の側はどう受け入れるのか−。移民の研究に没頭する志村さんに、ぜひ、聞きたい質問があった。高齢化の中、外国人が増加する市営住宅の町内会をどう見るか。「世代や文化的な背景が偏っている住民構成で、自分たちだけですべてを解決するのは、限界がありますよね」。その問題意識こそ、教室を引き継いだもう一つの理由かもしれない。
 (鈴木龍司)

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