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ベイルート 時が止まった「英雄」

2022年7月5日 16時00分 (7月5日 16時00分更新)
 レバノンの首都ベイルートにあるパレスチナ人殉教者墓地。野鳥が集まる墓地に五月三十日、ある日本人の男(74)が姿を見せた。男は日本赤軍元メンバーで、一九七二年にイスラエルの空港で無差別乱射事件を起こした。二十二年前にレバノンに政治亡命したが、現在も殺人容疑で国際手配されている。
 この日は事件から五十年の節目。式典に参加するため現れた男は、小さく、細く、弱々しかった。促されるままに墓石に手を合わせ、名前を呼ばれても反応は薄い。ただ、日本人の私の姿が目に入ると、ハッとしたように一瞬だけ瞳が揺らいだ。
 事件当時、男はアラブ社会の「英雄」だった。はるか東の国から、パレスチナ人のため対イスラエル闘争に加わった。事件では二十四人が犠牲となったが、大多数がイスラエルと無関係の旅行者だったという。
 偶然にもこの二日前、日本赤軍元最高幹部の女性(76)が二十年の刑期を終えて出所した。男の世話役によると、女性の出所は伝わっていない。事件から半世紀が過ぎ、当時の英雄を知る人もほぼいない。レバノンで一人、男の時間だけが止まっているようだった。 (蜘手美鶴)

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