【富山】生き残った絵画 勇気の源 小矢部の美術家 火災で自宅全焼
2022年7月5日 05時05分 (7月5日 11時50分更新)
作品の大半焼失も 活動再開し個展実現
富山県小矢部市浅地(あさじ)で三月に発生した火災で自宅が全焼した美術家中川佳代子さん(58)の個展が、同市のアートハウスおやべで開かれている。作品や画材が焼失した中、被害を受けなかった水彩画に勇気をもらい、活動を再開。二カ月間で三十四点のパステル画を描き、一度はあきらめた個展が実現した。「自分のやるべきことを教えてもらった。自由に見て楽しんでほしい」と話している。(広田和也)
火災は三月二十六日に発生。暴風で飛び火して浅地一帯の住宅や神社八世帯の計二十一棟を焼いた。中川さん方は住宅二棟と作業場、納屋が全焼、蔵も一部焼けた。作業場や納屋に保管していた絵画約三十点のほか、オブジェなど計約五十点のほぼすべてを失った。
自宅が燃えるのをぼうぜんと見ていた中川さんは「本当に起きたことなのか。自然の暴れる姿に人間の小ささを感じた」。その日のうちに、七月二〜十日開催が決まっていた個展の主催者、市芸術文化連盟に断念を伝えた。
転機は三日後の三月二十九日。焼け跡を訪れた際、夫が前日にがれきの中から見つけた水彩画「日々」(縦一・一メートル×横一・四メートル)と再会した。二〇一九年秋から一年かけて「ちっぽけでささやかだけど、とてもいとおしい」と思う小石を無数に描いた作品。右上の隅が少し焦げ、放水か雨でぬれた程度だった。
「火災から生き残り、強い絵だと感じた。絵を描いて自分の世界をつくる、という自身のやるべきことを教わった」と中川さん。高校時代の同級生から見舞いで画材をもらったこともあり、避難先の宿泊施設で四月上旬から再び筆を握り、予定通りの個展開催を目指すことにした。
小矢部、砺波、南砺三市内の中学校で美術教諭として勤務。一八年三月に退職後、作家活動に専念している。火災を機に明るい色彩が特長のパステル画に挑戦。これまでの幾重にも色を重ねた油彩、布や革を貼り付けるコラージュといった手法と異なり、オレンジやピンク、黄色の温かい色で心象風景を描き、幸せや優しさを表現する。
ささやかなものに光を当てるという作風は変わらないが、「まだ私は混乱期。自分をいたわるために反射的に明るい色を使っているのでは」と自己分析する。
個展のタイトルは「中川佳代子展−あれから…そして、今−」。パステル画のほか、実家や友人宅にあった油彩画やオブジェなど計五十八点を展示。焼失前と後を比較した自宅の写真も掲げる。六日は休館。
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