『海のF1』セールGP日本チームが解散危機 世界2位もスポンサー獲得苦戦…元商社マンセーラーのアイデア
2022年7月5日 06時00分
セーリングの国別対抗戦、セール・グランプリ(セールGP)の日本チームが“解散”危機に直面している。過去2シーズンは連続で世界2位と実績を残してきたが、スポンサー獲得に苦戦。今月末までに100万ドル(約1億3500万円)以上の支援を得られなければ、レース復帰は難しい状況に陥っている。発足時のメンバーでプロセーラーの笠谷勇希(33)に偽らざる胸の内を聞いた。そこにあったのはプロ魂だった。(占部哲也)
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世界2位の日本チームが窮地に陥った。必要なのは成績ではなく資金。率直な気持ちは―。1度目のインタビューではどこか腑(ふ)に落ちず、2度目の取材を願い出てもう一度尋ねた。一橋大卒、三井物産を退社してプロセーラーの道を選んだ笠谷は「う~ん」と右手であごを触った後、静かに口を開いた。
「残念ではあるけど、厳しい世界。『ふざけるな』っていう気持ちはないですね。(セールGPの運営側から)ずっとスポンサーを集めて自立しろと言われてきた。結果は残してきたけど、プレゼンス(存在感)を示す部分は不十分だったのかもしれない」
サラリーマンではないプロ。いつ、何時、解雇を告げられるか分からない世界で生きる覚悟。他人のせいにしたり、愚痴は吐かない。居酒屋のサラリーマンとは違う空気。だからか。不思議と悲壮感は感じなかった。
2019年に6カ国でスタートしたセールGP。当初、5年間は運営側から参加国に活動費が支給される計画だった。しかし、コロナ禍後に再開したシーズン2(21~22年)は8カ国、シーズン3(22~23年)は10カ国と年々増加。現在も参加希望チームは絶えないという。
日本での低い注目度とは反比例して、海外では最高時速100キロを誇る「海のF1」人気が高騰している。10カ国参加の今季、高速艇「F50」が9艇しかそろわず、日本は一時除外中。笠谷は「あの緊張感をもう一度、味わいたい」と本音も漏らした。
日本チームのほとんどがプロ選手。セールGPとの“二刀流”で、パリ五輪のセーリング日本代表を目指す高橋稜・森嶋ティモシー組、山崎アンナ・高野芹奈組も企業に属していない。ボート競技で12年ロンドン五輪を目指した経験のある笠谷は、10歳ほど年下のチームメートに尊敬の念を込めて言う。
「好きなことでリスクをとっている姿はかっこいいと思う。僕はリスクを取らずに三井物産に入った。実業団ではなくプロとして五輪を目指したり、活躍できる場を何とか残してあげたい」
日本チームの“司令塔”ネイサン・アウタリッジ(オーストラリア)は、世界的トップセーラーで「風の使い」とも称される。レース後には、金メダリストから戦略解説などの“講義”もある。笠谷は「ネイサンはサッカーで言えばメッシ(バルセロナ、アルゼンチン代表)。見えているものが違う。海面の色や空気のきめ細かい違いとか。それを教えてもらえるのはすごい財産」と話す。
また、レジェンドは世界中に豊富なネットワークも持つ。「五輪を目指す男女のペアにも海外遠征などで大きな助けになっている」(笠谷)。しかし、目に見えない大きな財産も、今夏までに支援者が見つからなければ消えてしまう。元商社マンの笠谷は一つのアイデアを挙げた。
例えば、非代替性トークン(NFT)などのデジタル暗号資産でチームに“投資”をしてもらう。リーグの価値やチームの価値が上がれば、株のように資産が値上がりする仕組み。「これからは、スポーツが投資になるような形もありだと思う」。ラグビー選手に間違われる丸太のような腕を持つが、冷静で、思慮深い。
そして、最後に純粋に個人として望むものを聞いた。「スポーツで世界一の景色を見てみたい。あとは、セールGPの日本開催。もちろん、日本チームの選手として出場して、たくさんの人に魅力を届けたいです」。プロとしては冷静に受け止めているが、1人の人間としての思いはくすぶっているように見えた。世界トップレベルのプロチームの火は完全に消えてしまうのか。期限は刻々と近づいている。
▼セール・グランプリ 米IT大手「オラクル」の創業者・ラリー・エリソンらが2019年に設立した国別対抗戦のヨットレース(5~6人乗り)で、海岸近くで見ることができる。1レース15分以内で勝負が決まる高速レースで、各国は同じ機能を持つ最新鋭艇「F50」を操る。今季は10カ国が参加、世界11都市を転戦する。国別対抗戦だが、日本は制限が緩和され、外国籍選手も在籍している。
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