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羽生善治編(9)〝天才〟を知る〝天才〟㊦

2022年7月5日 15時05分 (7月5日 15時05分更新)
2018年1月、公式戦初対決を控えた会見で握手を交わす羽生善治(右)と藤井総太=東京都渋谷区で

2018年1月、公式戦初対決を控えた会見で握手を交わす羽生善治(右)と藤井総太=東京都渋谷区で

藤井もいつか世界へ 
 愛知県にすごい少年がいるらしい-。二〇一一年四月、詰将棋解答選手権を運営する若島正(69)は、前年に好成績を挙げた小学三年生をひと目見ようと、名古屋会場の審判を買って出た。いざ対面し、その幼さにびっくり。「どんな子だろうと思ったら、会場でいちばん背が低い子が藤井君で。まさか…と思いました」。九年後、成長した少年は再び若島を驚かせた。第九十一期棋聖戦五番勝負の第一局。初めてタイトル戦に臨んだ藤井聡太が、現役最強と呼ばれた渡辺明からいきなり白星を挙げた。
 この時飛び出したのが、藤井が終盤に敵陣で角を成った妙手。詰め将棋で相手の出方をうかがう「打診の手筋」から着想を得たという一手だった。「実戦には現れないと思っていた特殊な手筋を生かした。彼は将棋への理解の深さが段違い。ここ十数年で一番びっくりした」。若島は興奮気味に振り返る。
 
 藤井は近年、若島が長年打ち込んできた「チェス・プロブレム」もたしなむようになった。いわば詰め将棋のチェス版。「きっと面白いからやっているんでしょう。間違いないです」。同好の士である若島の言葉は確信に満ちている。
 チェス・プロブレムの国際大会は、毎年一月に世界各地で同時開催される。しかし藤井は将棋のタイトル戦とぶつかり、出場できそうにない。若島はそんな彼のために別の舞台を用意したいと考えている。「彼がチェス・プロブレムで活躍すれば、将棋の国際的な知名度も上がる」とみる。
 藤井は将棋の海外普及に意欲的だが、当面は目の前の戦いに集中する構えだ。本紙の取材に「今はプレーヤーとしてキャリアを積み、ピークを過ぎたら考えてゆくイメージでいます」と語った。それでもいつか、羽生善治のように自ら海を渡るかもしれない。探究心をくすぐるフロンティアが、世界中に広がっているのだから。(敬称略)
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 「将棋を世界に」の連載は今回で終わり、七月から新連載「25階の勝負師たち」を始めます。

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