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「夏は牝馬だ」を示すには…JRA総研が挑んだ統計結果とは【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

2022年7月1日 06時00分

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6月12日行われた函館SSを制した3歳牝馬ナムラクレア

6月12日行われた函館SSを制した3歳牝馬ナムラクレア

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 統計を科学的に正しく運用するためには細心の注意が必要だ。いわゆるデータ予想がしばしば失敗するのは「調査対象が少ない」というケースも多いだろうが、そもそもデータの読み取り方で間違ってしまうケースも無視できない。
 よく知られた例に第2次世界大戦中の米軍爆撃機についての統計がある。米空軍が帰還した爆撃機の被弾箇所を調べたところ、主翼の先端やコックピットの前方などが偏って多かった。そこで米軍は被弾の多かったところの装甲を厚くする方針を立てた。
 これにコロンビア大の数学者エイブラハム・ウォールドが誤りと指摘したのが「生存者バイアス」だ。被弾箇所が少なかった場所は、そこに被弾した爆撃機が帰還できなかった、すなわち被弾が致命的になりやすいということを示している。装甲を厚くすべき場所は、データを“素直に”読んだ結論と真逆になる。
 競馬に「夏は牝馬」という格言がある。例えば、牡牝混合平地全競走で牝馬と牡馬+騙馬の連対率を調べると、2020年12月~翌年1月(冬季)は牝11・1%に対し、牡・騙15・0%と牝馬劣勢だが、2021年7~8月(夏季)は牝14・3%、牡・騙14・7%とほぼ互角になる。
 かなり明確な傾向だが、だからといって「夏に牝馬が(生理学的に)強くなる」とは直ちには言えない。例えば「牝馬はローカルに強いのかもしれない」。「夏は強い牡馬の多くが休んで、馬質の平均レベルが牡牝で異なるかもしれない」といった批判ができる。
 統計をメインに扱う研究者は、こうした批判にどれだけ反論を用意できるかで頭を悩ませる。2014年の「日本ウマ科学会学術集会」で、JRA総研はこのテーマに競走結果の統計で挑んでいる。東京、中山、京都、阪神のいわゆる4大場と、それ以外のローカル場での比較と、強い牡馬が休むといった事情が少ないと考えられる新馬、未勝利に絞った比較で、成績の性差を検討している。結果、競馬場の形態で性差はなく、新馬、未勝利では夏季に牝馬の成績が上がった。生理学的な理由は不明なままだが、夏場は牝馬の活性が上がるということは、ひとまず信頼できそうだ。

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