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記者コラム「こう見る」 がんの緩和ケア  胸の内 迷わず主治医に

2022年6月28日 05時05分 (6月28日 13時21分更新)

 「がんの緩和ケア」と聞いて、どんなイメージを持たれるだろう。
 医療用麻薬で痛みを取り除くこと、治療手段のなくなった患者さんの不安や恐怖を和らげること、などだろうか。
 医療記者の私は、患者や家族にじっくり向き合って話を聴く医師や看護師の姿が目に浮かぶ。最終段階の患者とは限らない。再発や転移を知らされたショック、仕事を続けられなくなるかもという不安、家族にどう説明すればいいか分からないという悩み…。さまざまな訴えに耳を傾け、本人が「生きる意欲」を取り戻せるように手助けするのが緩和ケアだ。
 がんの医療が進歩し、さまざまな大変さを抱えつつ長く生きる人が増える中、国は10年前から「がんと診断された時からの緩和ケア」の推進に力を入れている。がんの拠点病院では、治療中の患者をスムーズに支援できるように薬剤師や医療ソーシャルワーカーなどを含めた多職種の緩和ケアチームが活動している。
 しかし、病院によっては、連携がうまくいっていない。希少がん・消化管間質腫瘍(ジスト)の患者で緩和ケア医の大橋洋平さん(58)=三重県木曽岬町=によれば「緩和ケアって、ただ患者さんの話を聴くだけでしょ」と軽視する治療医がまだまだいるという。患者が胸の内を語る中で見違えるほど元気になることはよくあるのだが、検査データばかり見ている医師には目に入らないのかもしれない。
 実例を一つ挙げたい。
 名古屋市在住の遺伝性乳がんの患者・加藤那津さん(43)は8年前、温存治療したがんの再発が見つかった段階で、乳腺外科の主治医に「緩和ケアを受けたい」と申し出た。主治医は「まだ早い」と否定的な反応だったが、よく勉強している加藤さんは「本当に困ったときのために、時間をかけて信頼関係を築きたい」と説き伏せた。そして緩和ケアチームのスタッフと「患者ではなく、人間として接してもらえる関係」をつくったという。その後、肝臓に転移し、抗がん剤の副作用がつらくて生きる意欲を失いかけた時も、親友の死に打ちひしがれた時も、大きな支えになってくれた。症状が安定している今は、4月から大好きな屋久島に長期滞在して、登山やランニングを楽しんでいる。
 こうした事例がもっともっと増えていってほしいと思う。「患者本位の医療」という言葉は定着したけれど、患者の支持、後押しがなければ変わらないことも多い。緩和ケアがさらに充実し、神経難病、生活習慣病などの分野にも支援が広がることを願う。
 私は65歳になり、今月末で退職するが、最後にひとこと。
 がん治療中の人が胸の内を聞いてほしいと思ったら、迷わず「緩和ケアを受けたい」と主治医に告げてほしい。力強く生き切るために。医療をより良くしていくために。(編集委員 安藤明夫)

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