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『名古屋飛ばし』元祖は徳川家光? 正史を読み解き、たどり着いた一つの史実【企画・NAGOYA発】

2022年6月24日 12時00分

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徳川家光画像(堺市博物館蔵、同博物館提供)

◇第7回「名古屋飛ばしの元祖は?」その2
 大きなイベントやコンサートの開催、列車などが名古屋をスルーすることを「名古屋飛ばし」の元祖として、前回は江戸時代初期に江戸幕府の3代将軍・徳川家光が上洛(じょうらく)の帰りに、宿泊計画があった名古屋城を素通りにした逸話を取り上げた。が、厳密には「名古屋飛ばし」はしていないとの指摘もある。今回は尾張徳川家や将軍家の“正史”から実態に迫る。(鶴田真也)
  ◇  ◇  ◇
 

◆熱田東浜御殿に宿泊

 家光は上洛した帰りに名古屋城に立ち寄らなかった。これは事実のようだ。ただし、江戸幕府の正史でもある『徳川実紀』などによると、城に寄らなかったものの、尾張藩が熱田宿(名古屋市熱田区)に造立した「熱田東浜御殿」に宿泊したとの記録が残っている。
 1634(寛永11)年の旧暦8月9日に桑名(三重県)から船で佐屋(愛知県愛西市)を経由して熱田に到着。東浜御殿でもてなしを受けている。佐屋からは陸路で名古屋城へ向かうこともできたが、尾張藩の公式記録『源敬様御代御記録』によると、その2カ月前には熱田と佐屋にある御殿の整備を急ぐ指令が初代藩主の徳川義直から指示されており、もともと「桑名―佐屋―熱田」を通るルートが組まれていたもようだ。

◆名古屋城に2泊していた

 

徳川家光の上洛の工程

しかも家光が上洛する道中では名古屋城に2泊していた。『大猷院御実紀』には「大納言義直卿饗(きょう)せられ」とあり、義直直々の歓待を受けている。宿泊先は上洛殿と呼ばれる本丸御殿。その後は大垣(岐阜)から中山道経由で京に向かった。義直も3日遅れで名古屋を出発し、東海道経由で京を目指した。
 家光と義直はが不仲だったといわれることが多いが、“往路”は至って平穏。尾張藩の歴史に詳しい名古屋城調査研究センターの原史彦主査は「表立ったところでは2人に露骨な対立関係はなかった。義直の遺言にも将軍に忠誠を尽くせとある」と指摘した。

◆火災の知らせを受け…

 

徳川林政史研究所の藤田英昭さん

家光の上洛している期間は予定よりも長く、帰りに名古屋に再び立ち寄る計画も持ち上がっていたもよう。『源敬様御代御記録』には前の月の閏(うるう)7月27、28日ごろに名古屋入りする旨を事前に通知したが、実際にはその日は大阪に留まっていた。旧暦のためややこしいが、この年は1年が13カ月あり、7月と8月の間には1カ月が29日間の「閏7月」が設けられていた。
 急に江戸に戻ることになったのは江戸城の西の丸が全焼したとの知らせを受けたことが大きかったという。火災は閏7月27日に家光に伝わり、その7日後の8月5日に京を離れ、江戸への帰途に就いている。その後は膳所(滋賀県)、水口(同)、亀山(三重県)、桑名と1泊ずつし、熱田に着いたのは9日。長逗留(とうりゅう)することもなく、急を要していたことがうかがえる。

◆決定的な事実

 

鐘楼の奥の堤防沿いの一帯が東浜御殿の跡地=名古屋市熱田区で

名古屋飛ばしをされたことを思い詰めた義直が「籠城して一戦を交える」と語った旨が記されていた紀州藩系の文書『大君言行録』には、家光が帰りに近江(滋賀県)・佐和山城に滞在したとある。が、家光が帰りのルートに選んだ東海道からは大きく外れている。しかも当時は井伊家の彦根城が完成しており、佐和山城自体は既に廃城になっていた。この文書が成立したのは天和2(1682)年とされ、上洛の年から50年近くも後。その信ぴょう性が疑われてもおかしくない。
 さらに決定的な事実もある。義直は、家光が熱田に到着した時に名古屋城にいなかったのだ。京に一緒に滞在していたのは確かだが、義直が京を出発したのは8月8日。そのまま中山道経由で名古屋に向かい、同10日に岐阜に到着した。家光がその日に宿泊した先が岡崎(愛知県)。70km以上も離れている。

◆籠城するどころか…

 徳川林政史研究所の藤田英昭研究員も「『源敬様御代御記録』によると、義直は岐阜に残ってシカやイノシシを狩る鹿狩(ししがり)をしたと記録されている。名古屋城に籠城するどころか、家光を追討できる状態にもなかった」と説明した。
 ただし、家光が帰りに名古屋城に立ち寄らなかったことだけは事実。尾張藩が徳川ではナンバー2の家格ながら1度も将軍を輩出できなかったという負い目も影響したのか、このエピソードが「名古屋飛ばし」の元祖として独り歩きした形となったといえる。

宮の渡し公園にある案内板。東浜御殿の絵図も紹介している=名古屋市熱田区で

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