<向日葵のように>(10) 優勝、納得の引退
2022年6月24日 05時05分 (6月24日 05時06分更新)
「ただただ、疲れていました。だけど不思議と、負ける気はしなかったんです」
2018年6月、レスリング全日本選抜選手権。勝ち進んだ女子68キロ級決勝。悪性リンパ腫を克服し1年10カ月ぶりに公式戦に戻ってきた渡利璃穏(りお)は残り8秒、決勝点を奪った。母のさとみは言う。「見たことのない闘い方だった。あんなにフラフラしながら、ヘロヘロになっても食らい付いていった。気持ち以外の何ものでもなかった」
闘病によりスタミナは奪われ、リオデジャネイロ五輪の代表だった以前の姿ではなかった。それでも、勝つんだという思いだけで頂点に立った。その原動力を、さとみは「応援してくださる方々の存在でしょう」と推し量る。
優勝の瞬間、アイシンAW(現アイシン)の社長以下50人の大応援団、故郷の松江から駆けつけてくれた旧知の人たちから大歓声が上がった。「自分としては笑顔で終わりたかったのですが、目の前で至学館大の(谷岡郁子)学長が号泣していて…。それで涙がうつっちゃいました」と渡利は、あの時を振り返った。
10月の世界選手権にも出場し、海外の試合にも復帰を果たせた。翌19年11月、東京五輪を前に現役引退を発表した。「...
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