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松阪牛の伝統的肥育守る 農家に市が年50万円助成へ

2022年6月23日 05時05分 (6月23日 11時12分更新)
若いウシをなでる田中さん。ウシの角には矯正のためのひもがついている=松阪市飯南町深野で

若いウシをなでる田中さん。ウシの角には矯正のためのひもがついている=松阪市飯南町深野で

 松阪市は、松阪牛発祥の地・飯南町深野で伝統的な肥育手法を守る松阪牛農家に、年間50万円を助成することとし、事業費を計上した一般会計補正予算案を市議会6月定例会に提案している。飯南町深野では高齢化や担い手不足などを理由にこうした農家が離農するケースが相次ぎ、もはや実質1軒に。市は助成で伝統の継承を手助けするとともに、視察やメディアなどの取材を受けてもらうことで、観光客誘致にもつなげたい考えだ。
 市は伝統的な肥育手法を、自宅近くで十頭未満を肥育する小規模農家で、兵庫県産の但馬牛の子牛を仕入れ、九百日以上肥育する「特産松阪牛」を飯南町深野で育てていること−と定義。市によると、今回の事業の対象となりうる小規模農家は、十年前は八軒あったが、現在は実質一軒のみに減少。地域の伝統として支援が必要と判断し、助成に乗り出すことにした。本年度から始める考え。
 今回対象となるのは、田中秀治さん(63)。田中さんは祖父の代から続く肥育農家で、自宅から歩いて三十秒ほどの距離に牛舎がある。牛舎内には現在、六頭のウシがいて、田中さんは世話をする時はウシを名前で呼んでいる。「少数だからこそ、家族同様に育てている。子育てと一緒でウシの成長が楽しみ」とほほ笑む。
 田中さんは元公務員で、二〇〇八年に父が急死してから肥育に携わり始め、二年前に退職してから専業になった。毎日午前六時には牛舎を訪れ、ウシの健康状態を確認してえさを与える。牛舎近くの水田や畑で作業をしながら時折様子を見に戻り、夕方にえさを与えた後も二回ほど、自宅から牛舎に通う生活をしている。
 「五十年くらい前は、深野のどの家にも農耕用にウシを飼っていて、玄関からウシが顔を出していた」と振り返る田中さん。農耕用のウシは役目を終えると食用に転じたが、農業用機械の開発や、大規模生産者への集約が進み、次第に姿を消していった。
 深野に残る伝統的な肥育方法の一つに、角の矯正がある。安全のため、ウシが幼いころに三、四カ月間、ひもで引っ張って上向きになるようにする。田中さんは「父や家畜商に『角はちゃんとしておけよ』とよく言われたものだった」と懐かしみ、「体力が許す限りはこの方法を続けたい。伝統的な手法で育つうちのウシは、穏やかな性格になる。そんなところも、見てもらいたい」と抱負を語る。
 (清水悠莉子)

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