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マドンナ、マイケル、新幹線…「名古屋飛ばし」の元祖は江戸時代までさかのぼる?【企画・NAGOYA発】

2022年6月19日 17時00分

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◇第7回「名古屋飛ばしの元祖は?」その1
 

徳川義直画像(拡大模本)=部分(徳川美術館蔵 ©徳川美術館イメージアーカイブ/DNPartcom)

大きなイベントやコンサートの開催、列車などが名古屋をスルーすることを「名古屋飛ばし」と呼ばれることがある。1992年3月に東海道新幹線で「のぞみ」がデビューした際に一部列車がJR名古屋駅を通過しないダイヤが組まれ、地元で社会問題化されたことが代表格だ。その「名古屋飛ばし」の元祖は江戸時代初期までさかのぼるとの説もある。江戸幕府の将軍家と尾張徳川家の確執にもつながる、ある逸話に迫る―。(鶴田真也)
  ◇  ◇  ◇

◆古くから存在していた?


 「名古屋飛ばし」という言葉は一度は耳にした人もいるかもしれない。1987年にマドンナ、マイケル・ジャクソンが日本の各地でコンサートを開催したものの、名古屋公演は実施されなかった。92年に新幹線「のぞみ」の運行が開始されたが、下りの一番列車が名古屋駅などを通過することになり、この状態が97年まで続いた。
 この「名古屋飛ばし」は最近の話ではなく、古くから存在していたという。その元祖とされるエピソードがある。かいつまんで言えば、江戸幕府の3代将軍・徳川家光が上洛(じょうらく)の帰りに御三家の尾張藩が居城にしている名古屋城を素通りにして江戸に帰ってしまったという。1634(寛永11)年のことだ。
 これは徳川家康の十男で紀州(和歌山)藩主の徳川頼宣の言行を近臣が回顧した書物『大君言行録(南龍言行録)』などに記されている。
 同書によると、こんな顛末(てんまつ)だ。家光が上洛の帰りに名古屋城で休息をしたいと告げ、尾張藩初代藩主の徳川義直は大喜びして、将軍を迎える御殿などの整備を「夜を日に継いで」急いだ。

◆家光の思いも寄らない事情


 

徳川家光画像(堺市博物館蔵、同博物館提供)

ところが家光は京を出立し、近江(滋賀県)の佐和山城まで来たところで、思いも寄らない事情ができたとして、名古屋城へ寄らずに江戸に戻ることを決めてしまった。数日を懸けた支度が水の泡となり、メンツをつぶされた義直は「天下の恥辱をかいた」と思い詰め、一緒に京に随行していた弟の頼宣に「尾張に籠城し、安否を極める(一戦を交える)」と打ち明けた。
 これを聞いた頼宣は説得を試みようとしたが、義直が聞く耳を持たないだろうと判断し、「籠城の手段はよろしくない。さすれば、将軍様が尾張を通過するときに討って出ればいい。われらも伊勢から吉田(豊橋)に船で渡って加勢する。失敗すれば、枕を並べて討ち死にしよう」と逆にあおってみせた。
 すると義直は冷静さを取り戻し、「自分が滅ぼされるのは仕方がないが、何の罪もない貴殿を巻き込んで両家が取りつぶされれば、権現様(家康)に示しがつかない」と謀反を思いとどまった。
 義直は家康の九男で、宗家の家光にとっては叔父にあたる。しかも年齢は3歳違いで、2人は不仲だったと言われている。

◆家康の息子というプライド


 

名古屋城

その前年には、家光が病気にかかると、義直は事前に連絡をせず江戸へ急行。幕府側を慌てさせたことがあった。のちに4代将軍になる家綱が生まれる前の出来事で、万が一のことがあれば、将軍家が途絶えかねない状況にあったことから、意を決しての行動だったようだが、同時に「尾張殿に謀反の兆しあり」と警戒されるようにもなったという。
 当時は幕藩体制が整備されつつある時期で、家康の息子に始まる尾張、紀州の両家も、前代までの将軍の弟としての立場から大名筆頭へと、立場に変化が生じてきていたという。
 尾張徳川家伝来の史料を保管する徳川林政史研究所(東京都豊島区)の藤田英昭研究員は「義直が本当に怒ったのかを確認することは難しいが、この史料は、当時の雰囲気の一面を伝えていると思う。義直も頼宣も家康の息子というプライドもあったはずだし、家光よりも年上なので口出ししたい気持ちもあったかもしれない」と解説した。

◆熱田宿に1泊したとの記録も


 

大君言行録(国立公文書館所蔵)

『大君言行録』では露骨な「名古屋飛ばし」を含めた家光と義直の確執が読み取れるが、『徳川実紀』など幕府編さんの正史では違った一面も見える。家光は京からの帰りに名古屋城に立ち寄らなかったのは事実ながら、実際には尾張藩領の熱田宿(名古屋市熱田区)には1泊したとの記録があり、上洛の道中の「往路」では名古屋城に2泊もしているのだ。
 次回は、家光の帰りの行程と、義直の実際の行動を追う。(続く)

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