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夫婦孤立死、届かぬ見守り 蒲郡、気付かれず数カ月…妻は認知症の疑い

2022年6月19日 05時05分 (6月19日 05時06分更新)
亡くなった夫婦が暮らしていた住宅=愛知県蒲郡市で

亡くなった夫婦が暮らしていた住宅=愛知県蒲郡市で

 愛知県蒲郡市の住宅で四月、住人の夫(80)と妻(71)の男女二人が遺体で発見された。妻は認知症を疑われたが、必要な介護サービスを利用していなかった。民生委員の見守りはなく、近隣との交流も乏しく、地域で孤立した状況だった。
 蒲郡駅から一キロほど離れた住宅街。二世帯が入居する長屋式の平屋住宅の一室で、夫婦は暮らしていた。
 夫婦の遺体を発見したのは市内の大家の男性(80)ら。水道の検針に訪れた市職員から使用量が急減したことを知らされ、安否確認のために四月八日昼、無施錠の引き戸を開けたところ、六畳ほどの居間で夫、布団が敷かれた奥の三畳間で妻が倒れていた。
 蒲郡署によると、司法解剖の結果、ともに死後一〜三カ月ほどが経過。捜査関係者によると、夫の首元には衣類が巻かれていた。遺書は見つからなかった。妻が自然死した後、夫が後を追ったとみられる。
 近隣住民らによると、夫は日ごろ、散歩や買い物で外出し、二キロ離れた競艇場に歩いて通う一方、妻は家にこもりがちだった。同じ長屋に住む女性(67)は「奥さんの顔は見たことがない」と話す。近くの七十代女性は、二年前の国勢調査で訪問した際に妻の存在を知ったといい、「それまで男性が独りで暮らしていると思っていた」と振り返る。
 大家の男性などによると、夫は北陸、妻は三河地域の生まれで、十年ほど前からこの住宅で暮らしていた。家賃が滞ることはなく、年金と貯金で生活していたとみられる。子どもはおらず親族とも疎遠で、町内会にも入っていなかった。
 民生委員の訪問もなかった。蒲郡市で見守り支援の対象となるのは、七十五歳以上の独り暮らしと夫婦世帯。夫婦のどちらかが七十五歳未満の場合は原則、対象外となる。二〇一五年までは「六十五歳以上」だったが、高齢者の増加に伴う民生委員の負担などを考慮し、年齢を引き上げていた。
 市は三年前から、健康診断や医療機関での診療を受けていない七十五歳以上の健康状態の調査を始めている。市職員が昨年夏に夫婦の自宅を訪問したところ、夫は「問題ない」と応じたが、部屋は物が散らかり、ほこりもたまっていた。
 一方、妻ははさみと本を手にしたままうつろな表情で座っていたという。認知症の可能性があると判断し、地域包括支援センターと情報共有した。市は「個人情報」として詳細を明らかにしていないが、夫婦の意向で、適切な医療や介護につなげなかったらしい。
 誰からも気づかれず、死後、数カ月経過していたことに、近隣住民の一人は「今思えば、顔を見た時に声をかければ良かった」と残念がった。

支援は独居中心 夫婦でもリスク

 内閣府の高齢社会白書によると、2019年時点で、夫婦両方か、いずれかが65歳以上の夫婦は827万世帯。民生委員の支援対象は法的に定められておらず独居の高齢者が中心となりがちだが、夫婦世帯でも頼れる親族や知人がいなければ孤立する恐れはある。
 本紙報道で、夫婦2人暮らしで孤独死を迎えたり、無理心中を図ったりしたとみられる事案は蒲郡市の事案を含めて18年以降、中部6県(愛知、三重、岐阜、長野、福井、滋賀)で計6件あった。19年に三重県松阪市で80代の夫婦が遺体で見つかった事例では、妻が要介護認定を受けていたが、介護サービスを利用していなかった。
 サービスを利用するには原則として本人の同意が必要だが、介護現場での実務経験が豊富な淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)によると、「他人にかかわってほしくない」などの理由で利用を避けることが少なくない。
 高齢夫婦の場合、民生委員による見守りも「独居に比べて優先順位が低くなりがち」(結城教授)だ。ただ、見守りが行われていたとしても、その活動はあくまでボランティアの位置づけで、結城教授は「孤立死を防ぐには、行政が当事者を定期的に訪問して説得し、支援につなげるしかない」と語る。
 東邦大の岸恵美子教授(公衆衛生看護学)も行政の役割として、「断られた場合でも『また来てもよいですか』と声がけし、関係性を継続することが大切」と強調。さらに近隣住民との連携の必要性を指摘し「気になることがあれば、役所に連絡するように呼びかけてほしい」と求めた。
 (西山輝一)

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