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【宝生流シテ方・佐野玄宜の能楽談儀】能「氷室」

2022年6月18日 05時05分 (6月18日 12時57分更新)
氷を持って現れた氷室の神=2011年7月、石川県立能楽堂で

氷を持って現れた氷室の神=2011年7月、石川県立能楽堂で

神様がもたらす涼しさ

 今は冷凍庫で簡単に作ることができる氷ですが、昔は高級品。冬の間に降った雪を氷室で固め、保存して夏に食していました。加賀藩では、毎年七月一日に、氷室で保存しておいた氷を徳川家に献上していました。金沢には、今でも七月一日に氷室まんじゅうを食べる習慣がありますね。元々は氷が無事江戸まで届けられることを願って供えられたと言われますが、今では無病息災を願い食されます。
 冷凍庫の普及により氷室も廃れましたが、一九八六(昭和六十一)年に湯涌温泉観光協会によって復元され、毎年六月三十日に氷室びらきが行われています。昔の人は、冬の雪が、どうして夏までとけないのだろうと不思議に思ったに違いありません。そして、きっと神様が守ってくれているからだと考えました。
 そんな氷室の神様が登場する「氷室」という演目があります。帝の臣下が丹波国の氷室山を訪れると、氷室守の老人と若い男に出会います。老人は、氷室の起源や、氷が夏までとけない理由を語り、雪を集めて氷室へかき入れるところを見せます。老人が、この山に住む神の、氷調(ひつき)の祭を見ていくように言って姿を消すと、やがて氷室の神が氷を持って現れ、帝の臣下にささげて帰っていきます。
 丹波国氷室山の氷室は、帝に献上するための氷を作る氷室でした。加賀藩では五代藩主・前田綱紀のときに、氷室が多く作られ、一般庶民にも氷を食べることが許されるようになったそうです。氷室まんじゅうが作られるようになったのもこの頃とのこと。綱紀公と言えば、宝生流を採用し、町民にも能楽を奨励するなど、加賀宝生の礎を築いた人物でもあります。
 氷室の神は「小癋見(こべしみ)」という能面をかけて現れます。「癋見」は口をへの字に結ぶことを表す「へしむ」という言葉からきていて、口を結んだ力強い表情をしています。口があいていないので、声がこもりやすく、演者が苦労する面です。
 今年の夏も暑くなるようですが、見所(けんしょ)(客席)のお客さまに氷室の涼やかな空気をお届けできたらと思っております。 (さの・げんき)
◇金沢能楽会7月定例能(7月3日午後1時から、石川県立能楽堂)
 ▽能「氷室」(シテ佐野玄宜)
 ▽狂言「魚説法」(シテ中尾史生)
 ▽能「籠太鼓」(シテ藪克徳)
 ▽入場料=前売り一般2750円(当日3300円)、若者割(30歳未満、当日のみ)1100円、中学生以下無料(問)金沢能楽会=電076(255)0075
※タイトルは、世阿弥の話を聞き書きした「申楽(さるがく)談儀」になぞらえて。毎月第3土曜日に掲載。

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