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<ダークツーリズム>(前編)悲しみの地 旅する意義は

2022年6月8日 11時15分 (6月8日 11時15分更新)
 新型コロナウイルスは収束していないものの、旅行には出掛けられる状況になってきました。遊園地やリゾートもいいですが、戦争、災害など悲劇が起きた地を訪ねる旅もあり、「ダークツーリズム」とも呼ばれます。そういう場所にふらりと行っていいのでしょうか。あえて「ダーク」を見る意義は。他国への侵攻や人権弾圧のニュースが日々報じられるいまこそ、考えてみませんか。(日下部弘太)

 ダークツーリズム 戦争、災害などの起きた場所を訪れる旅を総称する概念として1990年代に英国で提唱された。日本では2013年に文化人らが「福島第一原発観光地化計画」を打ち出したことで認知度が上がり、同年の「新語・流行語大賞」にノミネート。海外でも広がりを見せ、ユダヤ人らが虐殺されたポーランドのアウシュビッツ強制収容所跡の博物館は19年、過去最多の232万人が来場した。

増える来訪者 外国人の伸び目立つ

 乗り手を失い、朽ちた三輪車。中身が黒い炭に変わった弁当箱。そこにいた人の影が残る「人影の石」…。広島市の広島平和記念資料館。被爆の恐ろしさを伝える遺品などの前で、多くの来館者が足を止める。新型コロナ感染急増前の2019年度は、過去最多の176万人が訪れた。
 目立つのは外国人の伸び。「訪日客の増加もあるが、核への危機感や戦争被害への関心の高まりも要因だろう」と細田益啓副館長(61)。悲劇を繰り返さないため「ダークな場所を自分の目で確かめ、実感することが大事」と語る。

「四日市公害と環境未来館」の展示。多くのパネルのほか、患者の肉声が聞けるなど被害の実態を幅広く伝える=三重県四日市市で


あえて暗さ見つめ 地域の全体像知る

 ダークツーリズムを日本で先駆的に紹介した井出明・金沢大准教授(観光学)は、教訓の継承や生き方の再考、近代への反省など、多くの可能性があると訴える。
 記憶をつなぐには遺構の保存や語り部の存在が重要で、それを観光で経済的に支えることも大切だと指摘。「ダーク」という言葉にもこだわる。「復興の過程で公権力や地元に都合の悪い記憶は隠されていく。あえて闇から迫ることで、地域の全体像が見える」

「影の視点は大事」「負だけではない」 受け入れ側は賛否

 受け入れ側の考えは。
 三重県四日市市の「四日市公害と環境未来館」で解説員を務める三輪晃久さん(67)は「影の部分を見ないと、未来につながらない」。直接の被害もだが、裁判を起こした患者が家族にも反対され、市民の支援の動きが鈍かったことなども知ってほしいと願う。一方、同館語り部で、四日市公害に50年以上関わる伊藤三男さん(76)は「大気汚染の防止規制など、公害の経験から得たものも多い。負の面だけで終わらない、発見の旅に来てほしい」とダークツーリズムへの違和感を口にした。

子どものうがいやマスク姿の通学などの説明パネル=三重県四日市市の「四日市公害と環境未来館」で

伝承団体「まずは来て」 収入面など継続には課題も

 そもそも、悲劇の場所への旅は「不謹慎」なのか。東日本大震災の伝承に取り組む「3・11みらいサポート」(宮城県石巻市)スタッフの藤間千尋さん(44)は「どんなきっかけでもいい。まずは来てほしい」。ただ、中には飲酒後に来て住宅の跡地で立ち小便をする人や、「私たちは海がない所だから大丈夫」と災害を侮るような人もいたという。
 活動を続ける上での課題も多い。十分な収入は得にくく「若い人が仕事として考えられない」。語り部の葛藤も消えない。「家族が亡くなったことをお金に置き換えているのでは、と悩む方もいます」

福島、広島は「ホープ」「ピース」で誘客図る

 戦争や災害に触れる旅を「ホープツーリズム」などと名付けて進めている地域もある。
 福島県などは2016年度から「ホープツーリズム」として団体向けツアーを実施。参加者は津波や原発事故が起きた沿岸部を巡り、語り部の話に耳を傾ける。昨年度は修学旅行を中心に1万人弱が参加し、本年度も1万人分が予約済み。19年度から語り部やガイド役を務める「ふくしまリアリ」(同県郡山市)の山口祐次代表理事(55)は「私たちが取り組むのは、教訓を生かすことに焦点を当てたツアー。影も光も見せて、そこから希望を生み出していこうということ」と話す。
 広島市は17年から、市内の被爆遺構などを巡るルートを「広島ピースツーリズム」と銘打ち発信している。平和について深く考えてもらいつつ、滞在時間を延ばして食事や宿泊の増加につなげる狙いだ。

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