若くても、認知症語り合おう 東浦の夫婦が相談窓口
2022年6月5日 05時05分 (6月6日 17時09分更新)
三年半前、夫が五十代半ばで軽度認知症の診断を受けた高浜市の夫妻が、東浦町石浜の多目的型スペース併設の食堂「ふぁーまーずまるしぇ栞里(しおり)」で、「認知症当事者による認知症の方のための相談窓口」を開いている。居場所として「同じ立場の人が来て、互いの経験をしゃべることで救われたら」と話している。
相談窓口を運営するのは、同市芳川町の神谷隆さん、安子さん夫妻=ともに(60)=と、栞里を経営する水野好美さん(53)の三人でつくるボランティア団体「乃和(のわ)の会」。町社会福祉協議会と連携し、今年に入ってから毎週水曜日の午前中に開催している。
エプロンを着けた隆さんが、自分の状況を語ったり、時にはキッチンからコーヒーを運んだりする。安子さんも、日常生活に表れた予兆、診断後の落ちこみ、夫の病気を公にしてから気持ちが楽になったことなど自身の経験を語る。
夫妻は地元でも評判の飲食店を、三十年ほど休みなく切り盛りしてきた。だが、隆さんの物忘れが目立つようになり、精密検査を受けて診断を受けた。それからは、夫を家に閉じ込め、安子さん一人で店に立った。「決して恥ずかしい病気じゃないのに、私のプライドだったんでしょうね。認知症だとみられると、夫本人にとってもかわいそうだと思っていたのでしょう」と当時を振り返る。
「隠さなくてもいい」との知人からのアドバイスを受け入れ、気は楽になったものの、相談した市に紹介される施設はどこも高齢者向けばかり。五十代の隆さんは周りと話が合わず、帰り道にぼそりと「俺が行くところじゃない」とこぼすこともあった。
夫のために「ありとあらゆるところに行ってみよう」と安子さんは決意し、やがて、東浦町の認知症カフェを通じて町内の栞里にたどり着いた。水野さんも認知症の当事者や家族への支援に関心を寄せていたところだった。安子さんたちは「若い認知症当事者のための居場所が本当にないなら、自分たちでやろう」と、相談窓口を開設した。
配膳や皿洗いを任された隆さんの姿を見て、安子さんは「ずっと下を向いて落ち込んでいた夫が、率先してやって明るくなっていくのが分かる」。新たに栞里の畑で野菜作りも始めた。隆さんは「周りがいろんなことを教えてくれる。すべてのことが『一年生』。畑仕事も好きじゃなかったけれども、やってみると愛着が出てくる」と、新たな生活にやりがいを感じている。
(栗山真寛)
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