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有馬記念とは明確に趣が異なる『ダービー』の育種における意義とは 【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

2022年5月27日 06時00分

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獣医師記者・若原

獣医師記者・若原

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 東京優駿、副題にいわく「日本ダービー」は、「競馬の祭典」とも呼ばれる。年末の有馬記念と並ぶ日本の競馬における大イベントだ。ただし、有馬記念とは明確に趣が異なる。
 有馬記念はいわば年末の興行上のお祭り。ほとんどの公営競技が年末の一大イベントとしてそれぞれ1年で最高格の競走を用意する(ばんえい競馬のみ、最高格のばんえい記念は年度末の3月。かわりに年末はばんえいダービー)のと同じ意味合いの競走だ。ダービーと決定的に異なるのは、育種における意義だ。
 ダービーが重要な競走なのは、設立意図である「種牡馬選定競走」としての機能にある。勝ち馬のほとんどが、人気薄で勝とうとも後に種牡馬となる。ダービーは、馬産とセットの競馬先進国において、その国の馬の改良の指針だ。
 家畜改良には地域事情に合わせた指針がある。例えば肉牛。日本では筋肉の中に脂肪組織が入り込んだ肉が好まれる。こうした脂肪の分布は、野生動物ではもちろん、他の多くの家畜でも見られない特殊な状態だ。自然状態と懸け離れた牛が増やされるのは、枝肉の品評会などで、この特性を持った系統を選抜し、繁殖させるからだ。赤身肉が好まれる米国や豪州では、脂肪が筋組織に割り込むことはほとんどない。逆に、筋肉質で赤身肉が効率よくとれる品種が幅を利かせる。
 サラブレッドの育種では(路線整備によってはそれ1本とは限らないが)、生産者はまず、その国のダービーに適した配合を検討する。だから、府中の芝2400メートルで「ダービー」を行う日本の血統は「軽い芝向きのスピード系」と言われるし、ケンタッキーダービーを、ダート2000メートルでテンから飛ばすスピード比べで争う米国の血統は「ダートよりのスピード血統」になる。最後にとんでもない上り坂の続くエプソムで消耗戦を繰り広げる英ダービーは欧州血統を「重厚」と言われる最大の背景になっている。地域の血統傾向は、その地域の「ダービー」が決める。
 「ダービー馬はダービー馬(である種牡馬)から」の格言は国によらず共通だ。ダービーの意義と育種学の見地からすれば、絶対でないにしても、それは当然とも言える。

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