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<ユースク> 政治活動と選挙運動、線引きは 春日井市長選で告示前に街宣やビラ

2022年5月25日 05時05分 (5月25日 09時15分更新)
新人3人が争った春日井市長選は期日前投票も多くの市民が利用し、投票率を押し上げた=20日、春日井市役所で

新人3人が争った春日井市長選は期日前投票も多くの市民が利用し、投票率を押し上げた=20日、春日井市役所で

 二十二日投開票された春日井市長選は、十六年ぶりに新人同士の争いとなり、三人の候補者が激しい舌戦を繰り広げた。一部の陣営は告示前から街宣車で名前を連呼したり、本人の写真や政策が入ったビラを配ったりした。これに対し市民から「事前運動で選挙違反なのでは?」との疑問が、本紙に寄せられた。専門家に取材すると「政治活動と選挙運動の線引き」という悩ましい問題が浮かんだ。
 「だれに投票してもいいから、春日井市長選に行ってください」。告示前日の十四日、記者が市内の自宅にいると、ある立候補予定者の街宣の声が聞こえた。自身の名前を連呼し、考えを主張していた。決して「自分に」とは言わず、市長選での投票を促していた。
 その数日前には、同じ予定者のビラが連日投げ込まれた。選挙期間中に配布が許される「選挙ビラ」と同じA4サイズで、表には本人の名前と顔写真、裏には「春日井市長選に出馬表明」の文字と、政策を載せていた。
 公職選挙法では、特定の選挙で特定の人物への投票を呼び掛けるような行為は「選挙運動」とされ、告示・公示日から投票前日までしか行えない。選挙運動を除き、政党や個人が日常的に行う活動は「政治活動」として区別される。選挙の前に選挙運動に当たる行為をすると、「事前運動」の違反となる恐れがある。
 この陣営の告示前の活動については、市民から本紙に電話があったほか、市選挙管理委員会にも問い合わせが来ていた。市選管の担当者は取材に、告示直前という時期やビラの内容などから「グレーゾーン」と答えた。ただ選管には事前運動かどうかを判断する権限はないため、春日井署に連絡したという。

識者の見方 グレーゾーン…問われる順法精神

 元川崎市選管事務局長で、国の選挙管理アドバイザーを務める小島勇人さん(選挙制度実務研究会代表理事)は「政治活動と選挙運動の線引きは非常に難しい」と前置きした上で、「街宣やビラの内容から、このケースは事前運動に当たる可能性が高い」と話す。
 主に注目するのが、街宣車で名前や政策を連呼し、ビラで「市長選出馬表明」と明記している点だ。「出馬を公言している人物が、直接『自分に』とせずとも『選挙に行って』と言えば、自分への投票を働き掛けたとも解釈できる。ビラの内容も選挙ビラと言ってよい」と小島さん。告示直前という時期を考えると「グレー度はさらに高くなる」とする。
 地方自治や選挙に詳しい東北大大学院の河村和徳准教授は「選挙運動のあり方自体を考える時期に来ている」と指摘する。大きな要因が、SNS(交流サイト)など情報通信技術の発展だ。日本では買収などの腐敗を防ぎ「カネのかからない」選挙を志向して、戸別訪問や文書配布が厳しく制限されてきた。戸別訪問ができず、選挙カーで名前を連呼するスタイルは世界的には少数派という。
 しかしネットの普及で誰でも容易に情報発信できる時代になり、SNSやオンライン会議システムを使えば有権者に直接的に働き掛けることも可能だ。期日前投票が一般的となったことも、候補者を「早めに動きたい」という気持ちにさせ、河村さんによると、最近の地方選挙では事前運動に近い活動が行われる傾向が強まっている。
 ただ「公選法という規制、紳士協定が存在する以上、順法精神は問われる」と河村さん。「グレーゾーンならやった方が有利」という判断もあり得る一方、「市民が疑問に思うということは票を減らすリスクも意味する。ルールを守れない人と見られれば、仮に当選しても信頼は得られないだろう」と話している。
 (加賀大介)

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