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実は「フケ」≠「発情」 パドックで外野が兆候を読み取るのは至難【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

2022年5月20日 06時00分

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昨年のオークスを3番人気で制したユーバーレーベン。3着に16番人気ハギノピリナが入り3連単53万円超の波乱となった

昨年のオークスを3番人気で制したユーバーレーベン。3着に16番人気ハギノピリナが入り3連単53万円超の波乱となった

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 平地G1では1番人気馬が昨年のホープフルSから9連敗中で、今年は多少荒れても「まあそういう流れ」くらいに受け流されそうだが、オークスはG1の中でも波乱傾向の強い競走だ。直近10年で3連単10万超の決着が3度ある。
 要因は多種あるだろう。距離設定と一緒によく言われるのが施行季節だ。5月はほぼすべての牝馬が発情しうる季節にあたる。
 人で28日の「月経周期」にあたる用語を動物では「性周期」と呼ぶ。馬は21日。季節性繁殖動物で、おおむね春だけこの周期が回る。北半球では早くて1月に始まり、遅いと8月まで続く。排卵前後の数日は発情に伴って競走能力が減衰すると信じられてきた。厩舎人は、馬のしぐさなどからこれを読み取ったとして「フケが来た」と表現する。
 ところが近年、繁殖学的な意味の「発情」(=排卵前後)と、厩舎人の言う「フケ」が、必ずしも一致しないことが分かってきた。JRAは研究の一環として2011~13年の3~8月に栗東在厩の現役牝馬の一部を対象に採血。性周期の指標となる雌性ホルモン濃度を調べている。
 ほとんどの馬は正常な性周期を刻んでいた。従来、現役馬は高ストレス下にあるために、慢性的な“生理不順”の状態にあるとの説もあったが、そもそもストレスの影響が小さいのか、栗東の環境が快適なのか、性周期は正常だった。
 同時に、担当者に当該馬が「フケであるか」を問診。突き合わせてみるとこれがてんでバラバラ。統計的にも無関係なことが示された。注意しなければならないのは、これは「担当厩務員の判断がでたらめだ」ということを意味しない。担当者が「今は走らなそうだ」と察知する、従来フケとされてきた兆候が、実は性周期や発情とは無関係だったという理解が真実に近いだろう。
 しかし普段から近くで見ていない外野がパドックで、やれ「腰が浮いている」「担当者に擦り寄って歩いている」と“フケの兆候”を読み取ろうとするには、その判断基準、根拠は今やかなり怪しい。このリスク要因は丁半ばくちだと割り切るのが、むしろ科学的・合理的な判断だと言えるだろう。

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