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ソーシャルスキルを育む異年齢集団の学び(下) 世界遺産の村は9学年縦割り…仕掛け人は岐阜市の教育長に

2022年5月20日 17時58分 (5月20日 17時58分更新)

<WEB特集>ソーシャルスキルを育む異年齢集団の学び
(上)岐阜市・名古屋市のイエナプラン導入校リポート
(中)なぜ今? 北海道大・川田学准教授に聞く
(下)世界遺産の村は9学年縦割り…仕掛け人は岐阜市の教育長に

白川郷の知恵「結」を学校に


 小中一環教育を行う岐阜県白川村立の義務教育学校・白川郷学園は、異年齢集団の教育効果に早くから着目してきた。同校では小学1年生から中学3年にあたる9年生までを縦割りし、約10人ごとの「結クラス」を構成。毎日、休み時間の遊び、給食、掃除など、授業以外の学校生活をほぼ異年齢で行う。
 「結」とは白川郷の厳しい冬を越すための相互扶助の仕組み。曽出昌宏副校長は「低学年の子は上級生に助けられて憧れ、上級生は頼られる経験で自己有用感が高まる」と説明した。例えば、結クラスで一緒に取る給食の場面。普通の中学校の3年生の女子は、体型を気にして食事量を減らすことがあるが、白川郷学園では小学1年生のお手本となるため、残さず食べるという。一方、1年生も、上級生をまね、素早く食べる習慣を身につける。

小中学生が混ざり合って遊ぶ白川郷学園の休み時間(白川郷学園提供)

早生まれの子どもに自己肯定感を


 また、早生まれの子どもに対しても大きな効果がある。一般に同学年の集団では、早生まれの子は、低学年のころほど運動や勉強に不利な傾向がみられ、自己肯定感が低いまま育つ。しかし白川郷学園では、学級の中で自己肯定感が低い早生まれの生徒が、結クラスで過ごす休み時間には下学年の児童の兄姉として生き生きと活動している。
 「小学1年生から中学3年生まで通う義務教育学校の縦割り学級は、いわば9人兄弟姉妹です。無理なく無駄なく、人として成長していく。この自然な学びこそが異年齢の教育のすごさです」。
 そう話すのは、2017年の開校から2年間校長を務め、独自の学校づくりに奔走した水川和彦・岐阜市教育長だ。上記のような場面を数多く目の当たりにし、「異年齢集団の活動では、必ずといっていいほど、自分が必要とされる場所ができるんです」と力を込める。

 では、2021年度から就任した岐阜市の教育長という立場では、どのような教育を描くのか。
 

【水川和彦教育長に聞く】

異年齢集団での学びについて語る岐阜市の水川和彦教育長=岐阜市役所で


水川和彦(みずかわ・かずひこ) 1958年、岐阜県飛騨市生まれの63歳。岐阜県内の小中学校6校で教員生活を送り、岐阜県教育委員会の義務教育総括監を経て、2017年に東海地方初の義務教育学校である白川郷学園の初代校長に。定年退職後の19年から2年間、岐阜聖徳学園大教育学部の教授を務め、岐阜市の教育大綱づくりにも携わった。

岐阜市の小中一貫校では合同授業も

―白川郷学園での経験を、岐阜市ではどのように生かしているのでしょうか?
 教えたり教えられたり、支えたり支えられたり、異年齢集団の持つ教育力を生かすことは教育改革の一つの起爆剤になると考えています。家庭も異年齢、会社も異年齢、地域も0歳から100歳まで異年齢。社会はそういうものでしょう? つまり本当の意味で生きる力、生きて働く力は異年齢集団の中でこそ身につくと考えています。岐阜市の小中一貫校の取り組みでも、例えば藍川小・藍川北中では中学生が小学生に算数を教える土曜日の合同授業が伝統的に続いていますし、本年度は、縦割りの「なかよしグループ」で防災や地域について一緒に学ぶ授業が通年で行われます。各校の総合学習などでも、もっと生かせるはずです。
―則武小学校が取り組むイエナプラン教育との共通点は?
 そもそも岐阜市が教育大綱で掲げているのは、誰一人取り残さないことや、生命の尊厳。その本質は子どもたち一人一人の命が輝くということです。しかしこれまでの学校は横並びでやってきたので、勉強ができる子、できない子、運動が得意な子、そうでない子がどうしても生まれてしまう。4月1日生まれと2日生まれでは、誕生日は1日しか違わないのに1学年違うことをやらされて、それが当たり前になっている。本来はその子の成長や発達に合わせて教育があるべきです。
 それは、実は白川郷学園に行ってすごくわかったこと。そして異年齢での教育の方法について考えているときにイエナプランを知り、「これは面白いぞ」と。則武小は積極的にチャレンジされていて、これを岐阜市としてのプランの中にどう組み込んでいくのかを考えています。

岐阜市の則武小を視察し、「サークル対話」に耳を傾ける水川教育長(中央右)と、柴橋市長(同左)

学校選択制も視野に

―全国的にイエナプラン教育への注目や保護者の期待も高まっています
 これまで、学校教育は小さいアップデートを繰り返してきました。しかし変化の激しい現代は、アップデートでは間に合わない。コンピュータでいうなら、OS(基本ソフト)そのものを入れ替えなければ対応できないのです。
 ただ、間違えてほしくないことがあります。私は、則武小のチャレンジを温かく見守っていますし、OSを入れ替えた一つの教育のモデルとして期待しています。しかし教育委員会として、岐阜市全体にイエナプランを広げようとしているわけではありません。単に形式的にイエナプランを取り入れてもうまく成果は出ないと考えています。異年齢が持つ教育力を見据え、なぜイエナプランなのか、子どもたちにどんな成長が期待できるのか、根本のところをつかんで実践しないといけない。
 大切なのは、一人一人が生かされ、認められる場が学校教育に保障されることです。各学校が、地域の実態を生かしつつ、イエナプランや小中一貫教育など特色ある教育を展開し、保護者が、わが子に育てたい力を踏まえて学校や教育の内容を選択できるようになると、岐阜市の教育はより進展すると思っています。
(終わり)
(宮崎厚志)<記者のページ>

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