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「実力派俳優」の定義とは? 薄れゆく顔面至上主義と“ごり押し”キャスティング

2022年5月15日 08時40分 (5月15日 13時05分更新)
第一線で活躍する人気俳優陣、伊藤沙莉・吉岡里帆・上白石萌音・橋本環奈(C)oricon ME inc.

第一線で活躍する人気俳優陣、伊藤沙莉・吉岡里帆・上白石萌音・橋本環奈(C)oricon ME inc.

 枕詞に「実力派」とつく魔訶不思議な職業は、俳優くらいではないだろうか。それは、“実力派ではない人たち”がいるからこそ成り立っていた言葉である。いわゆる「大根役者」が対義語に当たるのかもしれないが、これまで日本の芸能界では、演技力が乏しくても、ビジュアルさえ良ければメイン抜擢されるケースが少なからずあった。しかし昨今では、そういった風潮が弱まり、「実力派俳優」「大根役者」という言葉が消えつつあるのではないだろうか。
■男性陣から湧いたバイプレイヤーブームが風潮変えた? 女性陣も“実力”ベースの配役に
 この頃、いわゆる王道イケメン&美人ではないかもしれないが、演技が評価されてメインに抜擢されるという事象が相次いでいる。例えば、松下洸平は演劇畑で多くの賞を受賞していたが、ドラマ・映画・舞台でも長らく脇役として存在感を放っていた。だがNHK朝ドラ『スカーレット』(2019)で戸田恵梨香の相手役を務めるや、波瑠、吉高由里子、土屋太鳳など朝ドラヒロインを“沼落ち”させる演技で視聴者も魅了。
 女性俳優では、上白石萌音がいま最も勢いのある1人と言えるだろう。映画『ちはやふる』(2016)では広瀬すずのかるた仲間、『溺れるナイフ』(2016)では小松菜奈の地味なクラスメイト役を演じていたが、主演ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(2020)では佐藤健の恋人役を演じ、一大ブレイク。10年近くの下積みを経て、現在は舞台『千と千尋の神隠し』で、橋本環奈とWキャストを務めるまでに至った。
 NHK朝ドラ『まんぷく』(2019)でヒロイン・安藤サクラの姪、ドラマ『ルパンの娘』(2019)では深田恭子の恋敵、『私たちはどうかしている』(2020)では浜辺美波の恋敵などを演じてきた岸井ゆきのも、映画『やがて海へと届く』(2022)で浜辺美波を親友役に主役抜擢、その後もドラマ『恋せぬふたり』、『パンドラの果実』、映画『ケイコ 目を澄ませて』と、主演作が相次いでいる。
 ほか、この頃勢いを見せる俳優陣を挙げてみると、柄本佑、仲野太賀、山田裕貴、磯村勇斗、伊藤沙莉、三浦透子、古川琴音、蒔田彩珠と、男女ともにいわゆる“実力派”ばかりだ。
 当然今までも演技が評価されての抜擢はあったし、現在、王道イケメン&美人が活躍していないというわけではない。特に女性はビジュアル重視の色が強いように思うが、黒木華や松本まりか、江口のりこなど、若手以外でもこれまで“バイプレイヤー”として活躍してきた俳優陣の主役昇進が見られる。
 その前兆として、男性俳優陣のバイプレイヤーブームがあった。遠藤憲一、松重豊、小日向文世、滝藤賢一など、これまで名脇役と呼ばれてきたミドル・ベテラン俳優陣に注目が集まり、『バイプレイヤーズ』(テレビ東京系)も話題に。俳優は演技力あってこそ、主役たるものビジュアルも華やかであるべき、とされてきた風潮が5年ほど前から少しずつ変わってきた。その流れを受けてか、田中圭や高橋一生、中村倫也、鈴木亮平など、これまで“王道イケメン”の脇を固めてきた“実力派”達が、続々と主役昇進を果たした。
 女性でいわゆる“王道ヒロイン”の道を歩んできた俳優陣と言うと、吉岡里帆、有村架純、橋本環奈、永野芽郁、浜辺美波らだろうか。彼女らも役の幅を広げながら変わらず活躍しているが、揃って“実力派”だ。「ビジュアル先行」「大根役者」といった印象はなく、やはり確かな演技力あってこその人気を確立している。
■SNS、テレビ離れ、VOD乱立… ピンチを迎えた日本の芸能界はますます実力主義へ?
 思えば、昨今トップアイドルや人気モデルの俳優転向も少なくなったのではないか。少し前まで、他業種で人気が出たらとりあえず話題作りにキャスティング、という動きが多く見られた。だが、アイドルやモデル、芸人にしても、演技が下手であればすぐにSNSで叩かれる。元AKBにしても、俳優業を続けているのは、やはり演技力あってこその面々ばかり。他業種からの俳優転向のハードルは高まっているのかもしれない。
 その理由として、「“事務所ごり押し”が通用しない時代になった」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「これまではテレビが甚大な力を持っていたため、とにかくテレビに出ている俳優、よく見る俳優に人気が集中していた。つまり、テレビ側がある程度タレントの人気をコントロールできていました。芸能事務所側からしても、場数を踏むことで経験値を積み、演技力は後からついてくればいいとする考えもありました。ですがSNSが発達した今、ネットミームに日本ドラマを“学芸会”と貶める表現があるように、演技力が伴っていないと、逆に“晒し上げられる”危険性が高くなっているのです」(同)
 さらにはテレビ離れが進み、YouTubeやVODで視聴者が好きな俳優、好きな作品を選ぶ時代となった。演技力が乏しい役者が出ようものなら、すぐさまチャンネルは変えられてしまう。実際、前期ドラマ『妻、小学生になる。』(TBS系)では子役オーディションに2年間かけ、300人を審査したという。それにより選ばれた毎田暖乃は、堤真一の妻役・石田ゆり子の生まれ変わりの小学生という難しい設定ながら、見事な演技が話題を呼び、作品の高評価に繋がっていった事例もある。
■タレント独立相次ぐ今も、“事務所の価値”維持する『東宝シンデレラ』の先進性
 そういった“実力主義”が強まっている影響か、昨今、俳優陣の事務所退所や独立が相次いでいる。そんな中でも、事務所としての価値をしっかり担保しているのが東宝芸能だ。1984年より、角川映画が原田知世や薬師丸ひろ子などのアイドル女優を輩出していたことに対抗したオーディション『東宝シンデレラ』を開催。沢口靖子、斉藤由貴、長澤まさみ、上白石姉妹、浜辺美波らを輩出してきた。
 その背景には、しっかりと演技の土台を築き上げる事務所の体制がある。彼女らは受賞後すぐに主演抜擢するケースは極めて少なく、コンテストからブレイクまで4~5年かけてじっくり育てる。またブレイク後も、“王道ヒロイン”だけでなく助演としても経験を積みながら、コメディ、シリアス、様々な作品を通してしっかりと実力を培っている印象だ。
 コンテスト自体も形式的に毎年開催するのではなく、3~6年に1回の不定期開催。ビジュアルだけで短期的な可能性を見ているのではなく、しっかりと長年活躍できる逸材を掘り出そうとしている表れであろう。そういった事務所の真摯な姿勢あってか、第1回グランプリの沢口靖子、ファイナリストの斉藤由貴、先述の長澤まさみら揃って、コンテスト受賞以来、しっかりと俳優としての立ち位置を形成し、誰1人独立していない。
「そもそも歌舞伎では、人気・実力・華を持つ『一枚目』(主役)、容姿端麗な人物が演じる『二枚目』(色男)、滑稽な役を演じる『三枚目』(道化)、中堅役者で物語に安定感を与える『四枚目』(中軸)などの構造があった。トレンディドラマあたりから、この『一枚目』の概念が薄れ、いわゆる『二枚目』が主役を張る傾向に。それでも好評を得ていたのは、当時は“スター”という言葉に現実味があったから。
 しかし00年代半ばあたりから、“人気俳優”の言葉が大安売りになり、これに視聴者はうんざり。メディア多様化・分散の流れもあり、人気が一極集中することがなくなった。木村拓哉さん、天海祐希さんあたりが“スター”の最後でしょう。そしてマスコミが創り上げた“スター”が叩かれやすい現代、本当の実力を持つ者が人気、華を得るようになってきた。つまり、あるべき姿に…原点へと回帰していっているのかもしれません」(衣輪氏)
 VODの普及や韓ドラ人気の勢いなどにより、世界中の名作が横並びとなった今、制作陣も1人1人のキャスティングに慎重なのは当然。今後、“事務所ごり押し”が淘汰され、きちんと“実力”を育てる事務所が重宝されていくだろう。かくして日本のエンタメ界も益々実力主義が強まり、“実力派俳優”という言葉が死語になる日は近いかもしれない。

(文/西島亨)

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