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ソーシャルスキルを育む異年齢集団の学び(上) 岐阜市、名古屋市のイエナプラン導入校リポート

2022年5月20日 17時56分 (5月20日 17時56分更新)

<WEB特集>ソーシャルスキルを育む異年齢集団の学び
(上)岐阜市・名古屋市のイエナプラン導入校リポート
(中)なぜ今? 北海道大・川田学准教授に聞く
(下)世界遺産の村は9学年縦割り…仕掛け人は岐阜市の教育長に
 「タブレットがうまく使えない? じゃあここを押してね…」。
 困っている1年生を挟んで2、3年生が学習をサポートしていた。別の教室では、分からないところを6年生に聞く4、5年生の姿も。教えを請われた6年生も嫌な顔はしない。3学年混合の5、6人でグループを作り、自主学習を進める算数の時間。生き生きと学び合う姿がそこかしこにあった。
 ドイツで始まりオランダで発展した「イエナプラン教育」。近年、長野県や広島県での新規開校だけでなく、民主主義社会の基盤となる自律と共生の感覚を子どもたちに育んでもらおうと、全国で取り入れる小学校が増えている。その特長の一つが、3学年ずつの縦割り学級による異年齢集団での学びだ。日本では山間地の小規模校などで複式学級とする事例は多くあるが、都市部の学校で異年齢集団を意図的に取り入れる動きは珍しい。その狙いとは―。

「なかジャン・スクール」の体育で、運動場に出て異年齢集団で自由に遊ぶ則武小の子どもたち


月に一度、全校でクラスをシャッフル

 岐阜市の則武小学校は2021年6月から、月に一度のペースで「なかジャン(なかよしジャングル)・スクール」と呼ぶイエナプラン導入日を設けている。1~3年生、4~6年生の3学年縦割りで学級を再編成し、まずは体育。下級生も楽しめるよう全員で自由に遊びを考え、校庭に飛び出す。これでうち解けると、車座で哲学対話を行う国語、学び合い形式の算数へと続く。いずれの授業でも、教員は極力指導せず、観察とサポートに徹するよう求められる。

1~3年生のグループでも教員が介入することなく、3年生がファシリテーターを務めてサークル対話が進む

ファシリテーターが生まれるサークル対話

 「なかジャン・スクール」の中で最もイエナプラン的な時間が、サークルになって行う国語の哲学対話だ。「学校に行くのは何のため?」「友達って必要?」など、子どもたちが自ら挙げた問いを話し合う。当初は上級生の発言ばかりだったが、回を重ねるにつれ下級生も意見を言えるように。上級生は雰囲気づくりにも気を配れるようになり、対話を円滑に進めるファシリテーション能力を伸ばす子もいる。

 「今の子どもは校外でも異年齢で過ごす機会がほどんどない。みんなかなり楽しみにしていて、不登校傾向の子もこの日は登校してきますよ」。各教室を周りながら子どもたちや教員の様子を見守る松岡猛校長は、目を細めた。

子どもたちに話しかける則武小の松岡猛校長(中央)

令和の日本型学校教育を具体化すると…

 則武小は、コロナ禍以前は都市部の普通の公立小学校だった。変化のきっかけは、2020年春の一斉休校。子どもたちに主体的に学ぶ力が身に付いていなかったことに気づき、松岡校長は愕然とする。岐阜市としても推進していた「学び合い」から導入をはじめ、たどり着いた答えがイエナプランだった。
 文部科学省も2021年1月に、個別最適な学びや協働的な学びを掲げる「令和の日本型学校教育」を発表。松岡校長は「これを具体化しようとすると、お手本はイエナプランになるんですよ」と力を込める。

新しい教育大綱へのチャレンジ

 岐阜市にとっても、則武小の取り組みは重要な試金石だ。中学校生徒のいじめを原因とする自死をきっかけに、2020年末に市の教育大綱を改定。「一人一人が価値ある存在として互いに認め合う教育」を掲げた。昨年12月の「なかジャン」の日には、柴橋正直市長も視察に訪れ、「今は則武小にいち早く大綱を具現化するチャレンジをしていただいている」と先駆的な存在として評価。そのうえで「各学校で違うアプローチもしているので、大いに切磋琢磨して、教育を活性化していただきたい」と各校の異なる取り組みにも期待した。

縦割りグループで総合学習、2度のリーダー経験チャンス

 イエナプランと既存の小学校教育の融合モデルとして全国の注目を集める名古屋市東区の山吹小学校でも、異年齢での活動は活発だ。昨年度は3学年混合で8、9人の「ふれあいグループ」を作り、SDGsをテーマにした総合学習に年間を通じて取り組んだ。
 研究主任の石田恵将教諭は「3年、6年で2度リーダーを経験できる機会があることが最大のメリット。リーダーの気持ちを理解した4、5年生の貢献度もどんどん高くなっている」と、子どもの変化に目を見張る。4年目となる本年度も秋に予定する発表会に向け、地域の防災・福祉・環境などをテーマに協働的な学びを重ねる予定だ。

異年齢のふれあいグループで防災について学び、発表の準備をする山吹小の4~6年生



課題は教員の意識改革…「いかに子どもを信じられるか」

 ただ、両校ともに共通する課題がある。通常の学年別学級を維持しつつ異年齢での活動を差し挟むことにより、これに慣れていない教員の心理的・実務的な負担が増していることだ。旧来の一斉指導型の授業では異年齢に対応することはできないため、ティーチングからコーチングへの意識改革や、子どもたちが協働的に学ぶための環境づくりが必要となる。また、多様な発達の子どもたちの中には、通常とは異なる集団を構成されることが苦手な子もいることも留意する必要がある。異年齢で学級を再編成すれば、それだけでうまく回るわけではない。
 それでも、則武小の松岡校長は力を込める。
 「教員の意識改革を含めてやらなければ、学校は変わらない。異年齢を指導しようとするのではなく、いかに子どもを信じて任せられるかに尽きる」。
(宮崎厚志)<記者のページ>

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