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競走馬が舌を越す理由あれこれ。割引き要素ではあるが単純ではない【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

2022年5月6日 06時00分

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NHKマイルC1週前追い切りで、舌を出して走るインダストリア(右)

NHKマイルC1週前追い切りで、舌を出して走るインダストリア(右)

  • NHKマイルC1週前追い切りで、舌を出して走るインダストリア(右)
  • 4日、ウッドチップコースで追われるインダストリア。舌は出していない
◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 競走馬が舌を越すのは、しばしば割引き要素だ。操作性が損なわれていることが多いからだ。ただ、ことはそう単純ではない。
 ハミの構造と機能の説明が必要だろう。和語で「くつわ」。漢字の「轡」は非常によくできた会意文字だと思う。馬の「口」に金属の器具(車)を通し、両側に手綱(糸)がつながる。
 西洋馬術では体重移動や、あぶみとひ腹のコンタクトも重要な制御のポイントだが、和式馬術では、くつわの制御の比重が高いと聞く。「轡」は漢文では主にもうひとつの訓「たづな」で読む。和式馬術の操縦法を背景に、ハミを意味する読みが後から加わったのだろう。「はみ(喰)」は本来、ハミ身の中央で金具が接合する部分。ハミは主に、この接合部で舌を下顎に押さえ付け、馬を騎乗者に従属させる。
 馬の我が強かったり、初期調教の段階では、馬にとってはストレスだ。このストレスからの逃避で舌を越すことを覚える馬がいる。騎乗者への抵抗であり、当然、操作性は損なわれる。
 ただ、馬が舌を越すとき、考えられる理由は他にもある。例えば歯の摩耗によって鋭利な部分ができると、舌が口の外に逃げる。これは馬がハミの支配から逃げているわけではない。重心移動などでの指示に従えば、操作性は補完できる。
 ほかにも、ハミ身のサイズがそもそも馬に合わず、口腔内に不要なスペースが残っているケース、若齢期にたまたま舌を越すことを覚えて遊ぶようになってしまったケースなどがある。前者の状態で出走する馬は今の中央競馬ではほぼない。後者は判断がやっかいで、騎乗者に抵抗しているわけではないが、馬は遊んでいるので、操作性への影響はさまざまだ。
 注意しなければならないのは喉頭部疾患。馬は口では息ができないが、喉の奥が苦しいことへの反射として舌を外に出して口の奥の広さを確保しようとする。
 NHKマイルC出走のインダストリアは1週前追いで右に舌を越していた。4日の美浦W単走は舌を収めている。どちらも首を上手に下げて、追い出しにも素直に反応。騎乗者への抵抗はうかがえない。喉頭部疾患の話も聞かない。1週前に舌を越したことは、割り引かなくてもよさそうだ。

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