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笹針などと一緒に禁止リストに上がった「免疫学的去勢」とは【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

2022年4月29日 06時00分

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獣医師記者・若原

獣医師記者・若原

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 笹針、(主にソエに適用されていた)焼烙、ブリスターが、JRAでは退厩時を含めて4月から禁止されたことを先週の当欄で紹介した。新たに禁止行為として明文化されたものはほかに、血液ドーピング、遺伝子ドーピングなどがある。これらは人のアスリートの世界でも問題になっているし、一般にイメージは湧きやすいだろう。
 今般の禁止行為リストに、一般にはまったく耳慣れないと思われるものがあった。「化学的、又は免疫学的去勢」。もっぱら豚で行われる技術で、馬に応用される可能性と問題について、記者はこれまで、まったく思いも寄らなかった。
 雄豚を雄として成熟させてしまうと「雄臭」と呼ばれる独特なにおいを放つ。食肉とした際も、これが一般に「消費者には嫌悪される」と言われる。対策をしなければ、少なくとも雌豚の肉の方が圧倒的に重宝されるだろう。養豚業にとっては生まれてくる約半分の雄豚の肉の価値を支えるのは重要課題だ。
 そこでほぼ肉用に供される雄豚は、早い段階で去勢される。いちいち麻酔を施して外科的に去勢するのはコスト的にも、労力的にも大変だ。無麻酔で行っていた時期もあったと聞くが、今や動物福祉的にそれは許されない。そこで生み出されたのが免疫学的去勢だ。精巣の活動を制御している性ホルモンのうち、反応系の上位にあるホルモンに対して、ワクチン的な手法で自己免疫反応を起こさせる。若齢の雄豚に次々に注射を打つだけで、精巣機能を阻害できる。1998年にオーストラリアで開発され、2010年から日本でも農水省の承認を受けて使われている。食肉の安全性も確認済みだ。
 睾丸(こうがん)は小さくなるものの、取ってしまうわけではない。競走馬に秘密裏に応用すると、登録を牡馬のまま、去勢することができる。動物福祉的な問題もさることながら、クラシックなど騙馬出走不可な競走に実質的に去勢した馬を出走させるという“イカサマ行為”が成立しうる。実際には、去勢による果実が確実な馬というのも限られる。費用対効果がつり合わず、この種のイカサマに手を染める悪者は出てこないだろうが、禁止事項として明文化しておく意義は十分にあるだろう。

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