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昼は“喫茶” 夜は“スナック” がん患者 心の「止まり木」

2022年4月26日 05時05分 (4月26日 15時13分更新)
 コロナ禍を機に、名古屋市のがん患者らがビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を使って二〇二〇年春に始めたオンラインサロン「止まり木」が今月、通算二百回を迎えた。毎週木曜、昼間は喫茶店、夜はスナックとして「開店」する。治療薬や副作用などの情報を交換することもあるが、多くは気軽なおしゃべりだ。患者たちにとって「自分ががんであることを忘れる場」になっている。(編集委員・安藤明夫)

 オンラインサロン 通算200回

「通算200回」をテーマに盛り上がる参加者たち(一部画像処理)

 昼、夜合わせて通算二百回目を迎えることになった十四日。いつも通り午後二時にオープンした「がんサポ喫茶」には常連十人が集まり、「自分にとっての『止まり木』」について話し始めた。
 二年前に子宮頸(けい)がんの手術を受けた福岡市の女性(57)は「コロナ禍で地元の患者会は休止。入院中は面会が禁じられ、ずっと孤独だった」と振り返る。退院後、抗がん剤治療の影響で髪が抜ける中、ウィッグを着けて参加したのが最初だ。「皆さん明るく、がん患者のイメージが打ち破られた」
 ジスト(消化管間質腫瘍)を発症して八年という和歌山市の男性(52)も「もう人生の一部。パソコンが苦手なメンバーをサポートすることもあって、自分が必要とされているのもうれしい」と笑顔を見せた。
 昼の喫茶は一時間半ほど。夜九時からの「がんサポスナック」は、お酒を飲みながらの参加もOKで、一時間の予定が二〜三時間に延びることもある。いずれも出入り自由のゆるやかなサロンだ。

 止まり木を開設したのは名古屋市の薬剤師で、三十八歳の時に慢性骨髄性白血病の診断を受けた久田邦博さん(59)=写真。勤めていた大手製薬会社を一九年に早期退職し、以降はがんサバイバーとしての講演活動に力を入れる予定だった。
 しかし、コロナ禍に見舞われ、講演が相次いでキャンセルに。時間的な余裕もできる中で思いついたのが、Zoomを使ったサロンだった。当時、患者たちの多くはコロナ感染を恐れ、外出や人と会うことを控えていた。「孤立を防ぐ活動をしたくて」と言い、「止まり木」という名前には「心を休められる場に」という願いを込めた。
 二〇年四月に第一回のがんサポ喫茶を開いて以来、参加者は口コミで次第に増加。「夜もやってほしい」という要望を受け、やがて喫茶、スナックの一日二本立てになった。一回につき十人ほどが集まる。

 久田さんと開設に携わったスポーツインストラクターの村山民愛(みね)さん(56)=写真、同市=は口腔(こうくう)底がんのサバイバーだ。昼、夜とも司会者として話をリードする。時には治療薬や副作用、セカンドオピニオンなど病気がテーマになることもあるが、好きな食べ物や音楽、ドラマなどたわいないおしゃべりがほとんど。「口の中のがんで二度と話せなくなるかもと思ったのに、司会ができるなんて」と喜ぶ。
 最近は、患者に加え医師や看護師、薬剤師などの医療関係者、医療の道を志す学生、患者家族の登録者も増え、全国で二百人を超える。メンバーで夫が膵臓(すいぞう)がんの患者でもある新潟県立看護大准教授の山田恵子さん(52)は、止まり木の参加者計十人へのインタビューを二冊の電子書籍「がんサポ喫茶止まり木」にまとめた(アマゾンのキンドルストアで各三百円)。「頑張って生きる姿がすてきで、多くの患者さんに『一人じゃないよ』と伝えたかった。病院以外での顔も知ってほしかった」と話す。
 仲間としての結束は日々強まっている。昨夏には、がん患者の支援団体が「お出かけ代行」としてオンラインで実施した東京・等々力渓谷の散策にメンバー約二十人が参加。久田さんによると「本当に行った気分で麦わら帽子をかぶったり、虫よけスプレーを持ったり盛り上がった」という。
 実際に顔を合わせるリアルな患者会も徐々に復活してきたが、止まり木を閉じるつもりはない。「がんであることを忘れられる。ここが生きがい、という声も聞くようになった」と久田さん。「私のライフワークだと思っています」
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 参加はフェイスブックの「がんサポ喫茶止まり木」から登録。

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