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<先生が足りない>(上)
71歳が学級担任に 「不安な子どもたちのため」

2022年4月20日 18時00分 (5月30日 16時25分更新)
 学校の先生が、足りていない。文部科学省が公表した公立校の全国調査の結果では、昨年五月時点で二千六十五人が計画通りに配置されていなかった。長時間労働が敬遠され、教員志望者が減少傾向にあることも背景の一つ。必要分の配置があったとしても産休・育休、病気などで長期の休みに入る教員の補充が見つからず、校内の教員でやりくりして急場をしのぐケースも少なくない。まずは、教員不足の実態を探った。(加藤祥子、酒井ゆり)

体調不良で若手が退職

 「学級担任をしていただけませんか」。愛知県内の公立小学校で昨年七月、当時非常勤講師だった女性(71)に突然、校長から打診があった。
 ある学年の担任をしていた若手教員が、体調不良で七月に退職。その学級は、別の教員が一時的に受け持っていた。小学校を管轄する教育委員会が講師登録者から後任を探したが、「担任」には難色を示す人ばかりだったという。女性には、困り果てた校長から直接、話があった。
 女性は、担任不在の学級の児童たちが「普段より落ち着きがなくなっている」と感じた。「不安な子どもたちに、何かできることがあるなら」。九月から担任を引き受けた。

「ずっと一緒にいるよ」

 まず、児童たちに「先生はずっと一緒にいるよ。三月まで、どこにも行かないから安心してね」と伝えた。日々、対話を重ねていく中で、学級は少しずつ落ち着きを取り戻し、児童らも前向きに授業に臨めるようになった。
 「心が折れてしまう若い先生たちを見るのは本当に残念」と女性。ここ数年でプログラミングやタブレット端末の活用など、従来の授業以外にも指導する内容が増えた。「大変だ」と感じる気持ちも理解できる。「ただ、子どもたちと関われる『先生』は、本当に素晴らしい仕事。楽しさ、喜びもたくさんある。それを感じてほしい」
 四月、この小学校にも新任の教員が数人着任した。女性もまた非常勤講師として教壇に立っている。「悩みを抱える教員の相談に乗り、できる限り支援してきたい」。その思いを一層強くしている。

「待っていても来ない」

中学校の授業の担当表。社会科の教員の欄に国語が2コマ入っているのが分かる=岐阜県内の中学校で

 岐阜県内のある公立中学校で、昨年冬、国語科の教員二人が相次いで産休に入った。二人から妊娠の報告を受けた学校側は、夏ごろには県教育委員会へ補充を申請したがなかなか連絡がなかったという。別の中学校でも国語科の教員が退職して欠員のままという情報も入ってきた。校長は「待っていても来ない」と、知り合いの元教員十人ほどに電話をかけた。他の教員もかつての同僚に連絡を取った。しかし、介護などを理由に断られた。
 次に校長が打った手が「免許外教科担任」の申請。国語科の免許を持っていない教員が、国語を担当できるようにする手段だ。少人数授業のために加配された教員を充てれば、年度末まで授業を回せないことはない。秋に県教育事務所からの許可を得て、小学校勤務の経験がある数学科や社会科の教員に一年の国語を担当してもらうことにした。

数学担当が国語も…

 国語の授業もするようになった数学の男性教員は、「他のクラスと差が出ないように」と帰宅後も授業の流れなどを考えた。小学校勤務の時は国語も教えたが、「中学校の国語は専門的」と違いも実感した。教材研究の本を購入し、国語科の教員にも相談した。それでも、生徒から文法や言葉の意味などを聞かれた際、すぐに答えられなかったことも。「調べてみてね」と促したり、授業後に調べて伝えたりしてきた。
 そんな苦労の一方、女性教員が妊娠を控えたり、産休に罪悪感を抱いたりすることを心配する。「安心して産める環境が大事」と、きちんと補充されることを望んだ。

【公立学校の教員2065人不足】

 文科省が初めて実施した全国実態調査によると、公立小中高校と特別支援学校で、2021年5月の時点で教員が2065人不足していた。全体の4.8%に当たる1591校で計画通りの教員配置ができていなかった。
 この調査結果から中部9県の公立学校の教員不足数をみると、愛知県が125人、静岡県34人、岐阜県27人。義務教育標準法などに基づいて算定される教員定数ではなく、各県と政令指定都市などの教委が配置を予定した人数と照らし合わせて調査した。学校に配置される教員は正規のほか、臨時的任用、非常勤、再任用の講師を含む。
 各地の教委は代替などのため、講師を募集して登録しているが、年度途中のほか、地域や教科によっては、学校から申請されても補充が困難な場合がある。

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