ジョイス「ユリシーズ」刊行100年 相次ぐイベントや関連本
2022年4月15日 15時30分 (4月15日 15時30分更新)
二十世紀を代表するアイルランドの作家ジェイムズ・ジョイス(一八八二~一九四一年)が、長編小説『ユリシーズ』を世に出してから今年で百年になる。日本でも、研究者らがオンラインで通年トークイベントを企画したところ、六百人以上が視聴登録するなど、作品を読み直す試みに注目が集まる。その魅力はどこにあるのか。(宮崎正嗣)
『ユリシーズ』がパリの書店で刊行されたのは、一九二二年。新聞社の広告取りをしている主人公の男性レオポルド・ブルームを中心に、当時英国領だった〇四年六月十六日のダブリンで繰り広げられるさまざまなできごとを、十八の挿話で描き出す。
ジョイスは作品の中でさまざまな文学的な実験を施した。特に人間の心理の動きを文章で紡いでいく「意識の流れ」という手法は、その後のモダニズム文学に大きな影響を与えたとされる。複数の視点からの語りが同時に進行していくのも特徴だ。
オンラインイベントは、二十~四十代を中心とした若手研究者ら十三人が企画した連続講義「22Ulysses―ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』への招待」。今年十二月まで計二十二回にわたって各挿話を解説するほか、ゲストの専門家がそれぞれのテーマから講演する。二月に開かれた第一回の参加者は約四百人。四月に入ってから登録者数は六百人を超えた。発起人の一人で東洋学園大の小林広直准教授は「コロナ禍でこそ可能になったこのイベントを通じて、さまざまな出会いが生まれればうれしい」と期待を込める。
物語は大きな歴史的事件そのものを扱っているわけでなく、ドラマ性に富んでいるわけでもない。京都大の南谷奉良准教授は「描かれているのは、社会的弱者を含めた無数の人々の日常生活。“小さなもの、ささいなもの”に目を向けることの大切さを教えてくれる」と指摘する。
ジョイスは生前、ユリシーズについて、「ある日ダブリンがこの世から突然消えたとしても、私の本から再現できるくらいに、この街を完璧に描きたい」という言葉を残した。小説には当時の街の様子や地名が克明に記載されているほか、風俗や食生活、流行の音楽などあらゆる事柄が百科全書のように編み込まれている。文学以外にも地理や建築、宗教など、多分野から読み解く研究者や愛好家も多い。
日本ジェイムズ・ジョイス協会の事務局長を務める愛知教育大の道木一弘教授は「ユリシーズはとにかく情報量が膨大。ゆえにどんな興味、切り口から読んでも深められる。間口の広さがこの小説の魅力であり、読み継がれている要因なのではないか」と話している。
オンラインイベントへの参加は「ユリシーズへの招待」で検索。問い合わせは=22ulysses2022@gmail.com=へ。
オンラインイベントへの参加は「ユリシーズへの招待」で検索。問い合わせは=22ulysses2022@gmail.com=へ。
「ユリシーズ」を読む
現在入手しやすい邦訳は、丸谷才一ら訳の集英社文庫版(全四巻)など。ジョイスの誕生日にあたる二月二日には、『ジョイスの挑戦』(言叢社)と『百年目の「ユリシーズ」』(松籟社)という二つの関連書籍が出版された。
ジェイムズ・ジョイス
ダブリン生まれ。青年期以降の生涯の大半を、北イタリアのトリエステやスイスのチューリヒ、パリで過ごし、英語教師などをしながら作家生活を送る。小説の多くはアイルランドでの経験をもとにして書かれた。他の代表作に『ダブリン市民』『若い芸術家の肖像』『フィネガンズ・ウェイク』など。
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