本文へ移動

<学校ICT時代 デジタル教科書>(下)課題 活用法や操作に不安

2022年4月13日 18時38分 (4月14日 12時38分更新)
 本年度、すべての小学5、6年生と中学生に外国語(英語)のデジタル教科書が無償で提供されたが、文部科学省の前年度の実証事業に参加した学校の生徒らからは、操作面で「今まで通り紙の方が使いやすい」といった声も上がる。教員側からも、多忙な業務の中で活用法をどう習得していくのか、デジタル端末の接続を巡るトラブルへの不安など、課題は尽きない。(山本克也)

「使わせたのは数回のみ」

デジタル教科書で学ぶ生徒。本格導入に向けてはクリアすべき課題が多い=愛知県豊根村の豊根中学校で

 「児童に使わせたのは、数回のみだった」。前年度の実証事業に参加し、小学五年生の算数でデジタル教科書を導入した三重県内の公立小の男性教諭が振り返った。
 新型コロナウイルスの感染拡大で対応に時間をとられたほか、情報通信技術(ICT)を活用した校務支援システムの研修も優先され、デジタル教科書活用法の習得までは至らなかった。同僚たちも「使い方をすぐには理解できない」と苦手意識が強く、そのための研修も開けなかった。
 事業に参加した愛知県内の公立中の女性教諭は「授業で常時デジタル教科書を使う生徒は一割ほど」。タブレット端末では教科書とノートの画面を切り替えにくく、最終的に紙の教科書とノートを使う生徒が約半数になったという。重要な話をしている時でも、生徒が画面にばかり目を向ける点も不安材料に上げた。
 九教科でデジタル教科書を導入し、学習効果を上げている同県豊根村の豊根中。生徒からは「端末の電池の残量が心配。気軽に開けるのは紙の本」といった感想もあった。
 文科省の担当者は「導入校からの報告を分析し、活用法の研修動画や事例集を作り、各校に伝える」としている。

「目の乾き 感じやすい」

 長時間の端末使用による健康への影響も未知数だ。実証事業とは別に文科省が行っている研究事業の協力校への調査では「デジタル版の方が目の乾きを感じやすい」との結果も。同省は、画面と目との距離は三十センチ以上とり、三十分に一回は画面から目を離すなどの対策を呼び掛ける。
 豊根中でも、自宅でスマートフォンなどを見続けた生徒の視力が落ちる事例があったため、タブレット端末は学習に限り使用し、適度な休憩をとるよう指導を強めている。
 デジタルならではの課題も。デジタル教科書の使い方の主流は、インターネットに接続して見る「クラウド版」。不具合があった場合、「端末、ネット環境のどこに問題があるのかすぐには見分けられない」ことに加え、「授業が中断し、子どもの集中力に影響する」との不安もあった。

費用 誰が負担

 費用の問題も不透明だ。教科書無償措置法に基づいて国が購入費を負担する義務教育の教科書は、紙のみが対象。デジタル教科書の費用は、教科や発行社によって一冊当たり二百~二千円かかり、現状では自治体か利用者の負担になる。さらに、教科書にリンクした動画などのデジタル教材は、国費負担の対象外。学びの効果を高めるには教材と一体的な活用が望ましく、学校や家庭に負担をかけずに使える仕組みが必要になる。

効率追求だけではだめ 酒井邦嘉・東京大大学院教授(言語脳科学)

 デジタル教科書は音声の再生ができ、単語のつづりから音が想像しにくい英語での導入は理にかなう。しかし他教科まで広げる必然性はなく、あくまで紙の教科書を主体に考えるべきだ。
 複数の本のページを同時に参照し、読んだかどうか物理的に確認しやすいのは紙。デジタルは紙にはない機能も多いが、端末の電源を落とすと一瞬で実態がなくなる。端末で学習のすべてが完結すれば、紙のノートに手書きする場面も減る。学習内容を要約して理解する作業がおろそかになれば、ほとんど頭に入らない。効率を追求するだけでは身に付く記憶はできない。

学習目標で使い分けを 渡辺雄貴・東京理科大教授(教育工学)

 デジタル教科書は、紙の教科書の内容が含まれた、今までにない教育用の道具。子どもが端末を通して教科書にいつアクセスし、どこに書き込んだかを教員がデータとして集め、個々の理解の度合いを分析する実践例も増えており、一人一人に合わせた学習支援が期待できる。
 デジタル教科書を導入するとなると授業の仕方を変えなければならず、学校現場には確かに負担が大きい。しかし、社会のデジタル化は避けられない。紙もデジタルも、それぞれに特性や利点がある。二者択一論ではなく、教員が授業内容や学習目標に合わせて使い分けることが重要だ。

関連キーワード

おすすめ情報

学ぶの新着

記事一覧