片葉の葦<五島地区> 傷ついた若い侍、村娘との悲話 

2020年5月8日 02時00分 (7月20日 14時43分更新)

◆西を向く葉は追い求める魂

 今の浜松市南区五島地区に伝わる「片葉の葦」のお話を紹介します。
 昔、昔の話です。
 五島の村外れに、年老いた夫婦と娘が暮らしていました。
 遠州の空っ風が吹き荒れる寒さの厳しい冬の日のことです。夕暮れ時に、家の入り口の戸を何度も叩く音が聞こえてきました。
 「こんな時間にいったい誰が来たのかな」
 不思議に思いながら戸を開けると、傷ついた若いお侍が倒れ込んできました。傷が深く、立ち上がることができません。
 親子が懸命に手当てをすると、日に日に傷も治ってきました。親子は、手当てをしながらお侍と話すことが楽しみになってきました。お侍の話は、村では知らないことばかりだったのです。お侍は、起き上がることができるようになると、見ず知らずの親子にこれ以上迷惑をかけられないと考えました。夫婦にお礼を言い、家を出る支度を始めました。
 すると、夫婦は「まだまだお体が心配です。娘もお侍さまのお世話をさせてもらうことを喜んでいます。今しばらくはこのままご養生を」と引き留めました。
 お侍は心苦しく思いながらも、その後も過ごさせてもらうことにしました。
 春になったある日のことです。すっかり元気になったお侍は、お城にお仕えしなければなりません。お年寄り夫婦と娘に感謝しつつ、家を出て、西の方に去って行きました。
 すると、どうしたことでしょう。お年寄り夫婦の家から娘もいなくなってしまったのです。話を聞いた村人みんなで娘を捜しましたが、どうしても見つかりません。
 三日たった日のことです。娘の亡きがらが、村の入り江に打ち上げられました。お年寄り夫婦は、亡くなった娘が見つかった場所に通い続けました。いつしか、供養にたむけた花の周りに葦が生い茂るようになりました。
 「見てごらん。葦の葉がみんな西を向いている。まるで娘の魂がお侍さまを追い求めているようだ」

関連キーワード

PR情報