家康と田草刈り 笠と蓑を借り、百姓姿で命拾い

2020年5月19日 02時00分 (7月20日 14時35分更新)

◆声届く土地、殿様がお礼

 ある夏の暑い日のことです。戦いに敗れた徳川家康は、伊左地村(今の浜松市西区伊左地町の辺り)にたどり着きました。
 家康は大きな木を見つけると、やっとの思いで木陰に入りました。全身から噴き出る汗を拭い、「ようやく一息つける。散々な目にあったが、城に戻ればこっちのものだ」とつぶやきました。
 一休みした家康が逃げてきた方を見ると、遠くから土煙が近づいてくるのに気付きました。「まずい。追っ手が来たようだ。身を隠そうにも田んぼが広がるばかり。もはやこれまでか」
 家康が途方に暮れていると、田んぼの草を取っていたお百姓さんと目が合いました。事情を察したお百姓さんは、暑さよけに使っていた笠と蓑を脱ぐと、「これで良かったら、急いでお着けください。一緒に草を取っていれば、どこから見ても百姓です」と声を掛けました。
 家康は、言われるままに百姓の姿になると、お百姓さんに続いて田んぼに入り、草取りを始めました。
 敵の兵は、あっという間に迫ってきたものの、草取りをする2人には目もくれずに通り過ぎていきました。「かたじけない。笠と蓑のおかげで命拾いした」
 数年後のことです。お百姓さんの家に訪ねてきた侍が「お殿様が城に来るように仰せだ」と言いました。
 村から出たことがないお百姓さんは、どうしてお殿様に呼び出されるのか思い当たることがありません。どきどきしながら城に出向きました。
 深々と頭を下げているお百姓さんに、お殿様が「あの時はお世話になった」と声を掛けましたが、殿様とお会いした覚えすらありません。戸惑うお百姓さんを見たお殿様は「笠と蓑を借りた者じゃ。お礼として、そちの家から声の届く全ての土地を与えよう」と重ねて声を掛けました。
 お百姓さんは、家に帰ると「お殿様、ありがとうございます」と、ありったけの声を出して叫びました。
<もっと知りたい人へ>
参考文献:児童向け「家康の愉快な伝説101話」御手洗清

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