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日本の寺で「ウクライナ国歌」が響く 少年たちの美しい演奏に隣国出身者も涙…平和の思いウクライナに届け

2022年4月5日 16時08分

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コンサートに集った人たち。中央が神田敬州さん

コンサートに集った人たち。中央が神田敬州さん

【満薗文博コラム・光と影と】
 冷たい雨、ぐっと冷え込んだ4月4日の夜。携帯電話をジャンパーのポケットに押し込んで出掛けた。行き先は、電車で2駅の葛飾区高砂、ここで75年ののれんを守る大衆居酒屋「高砂家」である。
 南国生まれの僕は、そもそも寒いのが苦手である。それでも、心を動かされたのは、携帯電話で送られて来た「ウクライナ国歌」だった。撮影場所は、広島県三原市にある臨済宗佛通寺派の大本山佛通寺。送ってくれたのは、この寺の宗務総長・神田敬州さん(58)である。自らの寺「修善院」は同県世羅町にある。神田さんは、この町の象徴でもある伝統の県立世羅高校駅伝部OB。極めて珍しいとされる、走りの神様「韋駄天(いだてん)」の石像が鎮座し、日本代表を歴任した高橋尚子さん、有森裕子さん、瀬古利彦さんなど多くのアスリートのシューズが展示され、私も訪ねたことがあるが、この様は壮観である。「私は世界平和の上にスポーツがあると考えています」と神田さんは言う。
 さて、何ゆえに、佛通寺で「ウクライナ国歌」は演奏されたのか。演奏の前には、広島の書家・鳥生春葉さんが、平和を祈る書を揮毫(きごう)した。いま、日本各地の寺が、ロシアのウクライナ侵攻に異を唱え、平和を祈念する行動に出ている。神田さんらも動いていて、4日の催しもその行動の一環だった。
 だが、そのことだけで私が、雨の中、居酒屋に動いたワケではない。あまりにも美しい「ウクライナ国歌」の調べを聴いてほしいという思いが込み上げて来たからだった。この店で、この夜働いていたのは、あやかさんと、女子大生の舞さんだった。あやかさんは音大出身、舞さんは、実は、ウクライナの隣国スロバキア出身の母親を持つ。この2人に、それぞれの思いを持ってこの美しい調べを聴いてもらいたかったのだ。他の客への迷惑を考え、音量を調節すると、気品のある静かな「ウクライナ国歌」が流れ始めた。聞き入る2人の目が潤んで行った。「素晴らしい」「戦争が終わってほしい」と彼女らは静かに言った。
 これを近くで聴いていた青年も隣に来て聴いた。日本と米国のクオーターのデイビッド大煕君だった。彼もまた静かに話した。「早く平和が戻ってほしい」。
 実は、広島の古寺でこの曲を演奏したのは、バイオリンが14歳の平石英心リチャード君、ピアノが16歳の岡野純大君の幼なじみ同士で、ともに広島の出身。平石君の母親はウクライナの出身、祖母はロシアの出身だという。
 「ウクライナ国歌」は優美で温かい。冷たい銃弾がやみ、穏やかな日々が戻るのはいつになるのだろう。(スポーツジャーナリスト)

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