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「人間が犬をかむからドラマになる…」東海テレビが「ドロドロ」の愛憎劇『真珠夫人』を生み出すまで【企画・NAGOYA発】

2022年3月31日 17時30分

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写真1)「真珠夫人」に出演した葛山信吾(左)と横山めぐみ=制作発表会見で

第5回「東海テレビ・昼ドラ」その2

◇プロデューサーの鶴啓二郎さんに聞く

 東海テレビ(名古屋市)の制作で1964年5月にスタートした「昼ドラ」。文芸作品の映像化に始まり、人気劇作家・花登筺の『あかんたれ』に代表される根性ものを経て、代名詞にもなった「ドロドロ」の愛憎劇へと移っていった。今回は“唯一無二”を生み出し続けた制作者の思いに迫る。数々の作品を担当したエグゼクティブプロデューサーの鶴啓二郎さん(62)に話を聞いた。
  ◇  ◇  ◇
 「こんなすさまじいのか、と。報道記者の忙しさは経験していましたが、本当に寝る時間もなかった。今は働き方改革があるので再現できませんが」
 『牡丹と薔薇』『真珠夫人』などの作品を担当した鶴さんは最初、アシスタントプロデューサーとしてドラマ作りのノウハウを学び始めたが、撮影現場では驚きの連続だった。
 83年に東海テレビに入社し、希望だった報道部で取材記者となり、4年目で初のドキュメンタリー制作に携わる途中に東京支社営業部へ異動した。
 「ショックでした」という失意の中、日比谷公園を臨む支社に着任すると、同じフロアに昼ドラ担当の東京制作部があり、初代プロデューサーの出原弘之さんらとの交流が始まった。
 「作ったドキュメンタリーを見せろ」と声をかけられ、飲みに誘われるようになり、番組を作れるならと希望を出して91年、制作部に移った。
 多忙な日々の中、すでに四半世紀以上も昼ドラに関わる出原さんの言葉が今も忘れられないという。
 「公園を一緒に散歩していた時に、犬を見て『犬にかまれたらドラマにならない、人間が犬をかむからドラマになる』と言われました。当たり前のことでは面白くない、飛躍や意外性が必要だと」。荒唐無稽に見えることをしてしまう人間の本質をえぐることを意識したという。

◇やわな設計図では家は建たない

 90年代の昼ドラは3カ月ずつの年間4作品。1人のプロデューサーが年1作品を担当する。準備段階から放送が終わるまで10カ月。放送2カ月前から撮影がスタートし、終了直前まで撮影することもあった。一つの作品を終えると、1カ月くらいかけて次作の構想を練り、準備を始める。その繰り返しだ。

写真2)東海テレビの鶴啓二郎エグゼクティブプロデューサー


 「出原さんは『やわな設計図では家は建たない』と話されていましたが、いい脚本ができれば8割、9割できたも同然。基本的にはプロデューサーがやりたいものをやれるので、創作意欲をかき立てられ、腕の見せ所と感じました」。企画を決め、選んだ脚本家とアイデアをぶつけ合いキャッチボールを重ねて脚本を作り、制作会社や監督を選んでいく。
 90年代には人気劇作家の中島丈博さんと組み、『風のロンド』(95年)、『真夏の薔薇』(96年)、『砂の城』(97年)と愛憎劇を生み出した。その集大成となったのが、社会現象にもなった2002年の『真珠夫人』だ。
 「もともと菊池寛の作品が好きで『真珠夫人』を原作にしようと考えていました。恋愛や性が乱れていると言われるけど、本当にそうかなと。ピュアで、誰かをいちずに愛するという奥ゆかしい恋愛観が日本人の中に脈々と生きている。作品を通じてそれを表現したかった。若い人にも見てもらえると考えました」。企画会議では疑問の声も多かったが、結果的には大ヒットとなる。
 ヒロインの瑠璃子(横山めぐみ)と、夫・直也(葛山信吾)が会っていることを知った妻の登美子(森下涼子)が食卓に出した「たわしコロッケ」などの小道具も話題になった。
 「表現だけ見ればギャグにも見えるが、夫が初恋の人を忘れられずにいることを知った女房が出した料理には嫉妬や女性の情念や悲しみが込められている。普通に表現しても面白くない、遊んじゃえと脚本の中島さんがすっ飛んでくれました」と背景を語った。
 唯一無二の作品を生み出し続けた東海テレビの昼ドラ。草創期は名古屋の本社スタジオで撮影していたが、出演者のスケジュール確保などを理由に69年から東京での制作に移行。本社から離れた中での制作について「離れているがゆえに、ちゃんとしたものを作るから任せてもらうしかない。数字(視聴率)も取り、責任も取らなければいけないという環境の中でとんがった作品が生まれた。プロデューサー間の競争もあり、他の作品について議論をしていく中で時にはけんかをしながら高め合った」と振り返る。

◇制作部以外の社員も支え

 しかし、制作者の熱意だけでは、全国ネットの昼ドラを52年間も継続することはできない。

写真3)社会現象にもなった「真珠夫人」をイメージしたカクテル=名古屋市内で


 「制作部以外の社員が『うちにはドラマがある』と支えてくれた。民放なので営業が売り続けてくれなければ終わってしまうし、系列の中でドラマの存在をアピールしなければ継続できなかった」と、実際に何度も訪れた継続の危機に、会社を挙げて“財産”を守り通したという。
 「ドラマを作るノウハウを持てたことは東海テレビの財産であり、インターネットが普及している現代でも経験を基に新しいトライができる。今は明るく分かりやすいものばかりが求められ、金太郎あめのような番組を作って自分で自分の首を絞めているような気がする。独自の視点や思いを大切に唯一無二の番組を目指し、試行錯誤しながらトライを続けてほしい」。鶴さんは現在もシニアプロデューサーとして東京制作部で後輩たちを見守り続けている。
(佐藤芳雄)=続く

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