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愛知製鋼裁判 何が「営業秘密」なのか

2022年3月24日 05時00分 (3月24日 05時00分更新)
 重い無罪判決だ。トヨタ自動車グループの特殊鋼メーカー「愛知製鋼」の元専務らが技術情報を漏らしたとして、不正競争防止法違反(営業秘密侵害)の罪に問われた裁判。名古屋地裁は、起訴に「無理がある」とまで言い切った。
 また、告訴した愛知製鋼についても「一般化された情報についてまで、自社の営業秘密として保護を受けようとするのは、いささか都合が良すぎる」とたしなめた。「営業秘密」の解釈を広げすぎることへの警鐘ともいえる判決だ。
 問題となったのは、取引先との会議で使用したホワイトボードに書かれた装置の工程図。判決は、図が一般化されており、同社が開発した磁気センサー「MIセンサ」とは「大きく異なる」と指摘、「愛知製鋼の営業秘密であるとは認められない」とした。
 無罪となった元専務の本蔵義信さんは、実用化につながる科学技術の業績に与えられる国内最高峰の賞、山崎貞一賞を受けたこともある名の知れた研究者である。
 MIセンサは本蔵さんが主導して実用化した。ただ事業方針について経営陣と対立し、本蔵さんは自ら新会社を設立。退職後に新技術を用いてMIセンサよりはるかに性能の高い「GSRセンサ」の開発に成功した。商品化に向けて愛知製鋼に協力を打診したが、同社はその申し出を拒否した上、愛知県警に告訴。本蔵さんらは二〇一七年二月に逮捕された。
 愛知製鋼は本蔵さんが独自に開発した「GSRセンサ」を自社のMIセンサを模倣したものだと考えていた節がある。刑事裁判に並行し、同社は、GSRセンサの特許無効を特許庁に二度申し立てたが、いずれも退けられている。
 磁気センサーは、自動運転の開発に不可欠な技術で、グローバルな開発競争は一分一秒を争う。そんな中、無罪判決までに費やされた約五年は、開発が中断。本蔵さんが空白の時間を悔しがるのは当然だろう。裁判の過程で、新技術の内容を明かさねばならなかった点も含め、たとえ無罪を得ても、被告側が受けた損害は大きい。
 判決が最後に再確認したように「営業秘密を守る」ことの重要性は軽視されるべきではない。しかし、何が営業秘密かについて捜査当局は慎重でなくてはならない。安易に今回のような捜査が繰り返されれば、わが国の技術開発への負の影響は計り知れない。

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