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<ユースク> 太陽熱温水器、脱炭素の光 三河に源流

2022年1月24日 05時00分 (2月21日 10時10分更新)

屋根の上に載せて太陽の熱で水を温める太陽熱温水器は愛知県発祥ですが、あまり知られていません。1980年代以降、市場は縮小し、太陽光発電の陰に隠れています。しかし、脱炭素が世界的な課題になる中、安価で単純な仕組みの太陽熱温水器が再び脚光を浴びる可能性があります。=チリウヒーター(同県知立市)の川合英二郎副社長(51)

 メーカー役員からの投稿で、子どものころに近所にあった太陽熱温水器を思い出しました。同時にそれが愛知県発祥と知って驚きました。最新の太陽光発電や家庭用燃料電池がある今、昔ながらの太陽熱温水器が生かされる余地はあるのでしょうか。東海テレビと取材を進めると、侮れない実力が見えてきました。(石井宏樹)

給湯、暖房に高効率

太陽熱温水器の仕組みを説明するチリウヒーターの岡本康男社長。下部の黒いパネルで太陽の熱を集め、配管を通る水を温めて給湯に利用する=愛知県刈谷市のチリウヒーター刈谷工場で

 太陽熱温水器とは、黒く塗った集熱パネルを屋根に載せて水や不凍液を流し、太陽熱でお湯を作り出す装置だ。給湯だけでなく、集めた熱を床暖房に使うこともできる。
 国のエネルギー白書によると、太陽熱温水器類の新規設置台数は1980年の83万台をピークに急激に減少し、2019年は2万台と最盛期の40分の1以下。東日本大震災を機に太陽光発電が急伸したのと対照的な動きを見せている。
 太陽熱が再び注目を集めることがあるのか疑問が芽生え、太陽エネルギーに詳しい名城大理工学部の吉永美香教授(環境学)に尋ねると、「熱を熱のまま利用する太陽熱温水器は高効率で合理的。利用しない手はない」と意外な答えが返ってきた。
 19年度の国内のエネルギー消費で、家庭部門は全体の14.1%を占める。このうち「給湯」は28.8%と「動力・照明他」に続いて2番目に多い。国は50年度に温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指す中で、30年度には温室効果ガスの排出量を13年度比で46%削減する目標を掲げる。
 吉永教授は「家庭部門は全体に占める割合は高くないが、生活がエネルギー多消費型になり、個人消費は増加傾向にある」と指摘。大量にお湯を使う入浴の習慣がある日本は海外と比べて給湯に必要なエネルギーは2倍近い。「温室効果ガスを急いで減らすためには、技術的に信頼でき、大量導入できる太陽熱温水器はうってつけだ」と強調する。太陽熱の変換効率は50%程度と高く、最新の太陽光発電と給湯器の組み合わせと比べても遜色ないという。日照時間が長い中部地方の太平洋側では特に有効だ。
 30万円程度の標準的な太陽熱温水器で、年間で給湯需要の4割程度をまかなえるという。しかし、雨や雪の日はガスなどで補う必要があり、吉永教授は「どうしてもプラスアルファの位置づけの設備となってコストがネック」と、導入が進まない理由を説明する。

79年以降、需要激減

 昔からある単純な技術のため、あえて行政が支援して競争力を高める対象となりにくく、太陽光発電パネルと比べて太陽熱温水器の導入に助成する自治体は少ない。「海外では太陽光や太陽熱の利用を義務化した都市もある。脱炭素に本腰を入れるなら行政が強制力を持ってリードしないといけない」と提言する。
 現在の太陽熱温水器の源流は1950年代に愛知県の三河地方で急速に普及した「天日(てんぴ)タンク」にあるとされる。黒く塗った箱に水を入れて屋根の上で温める基本的な仕組みは変わっていない。愛知県が発行する農業改良普及事業30周年記念誌によると、安城市の県農業改良普及員の山本祐夫さんと、豊明市の兼子く十郎(くは金へんに九)さんがほぼ同時期に発案。58年には県内の台数が3万2800台に達し、半数近くは三河の碧海(へきかい)地域が占めた。
 農作業を終えた農家が、わらや薪を燃やしてお湯を沸かさなくてもすぐに風呂に入れる便利さが受けた。かつて刈谷市のケーブルテレビ局「キャッチネットワーク」の番組で太陽熱温水器を取材した番組制作会社の宮本雅文さん(52)は「碧海地域は当時、全国有数の普及地域。木材や金属の加工というこの地域のモノづくり技術も一役買った」と話した。
 その後の流れをチリウヒーターの岡本康男社長(81)に聞いた。同社は現在主流の太陽熱温水器を開発した老舗で、岡本社長は60年近く業界の動向を見続けている。
 ピークは79年の第2次石油ショックのころ。岡本社長は「化石燃料が使えないという危機感で、2年間で売り上げが10倍に膨れ上がった」と当時の熱狂ぶりを振り返る。だが、石油の安定供給が当たり前になると需要は激減。「人々の意識の中から太陽でお湯を沸かすという発想がなくなってしまった」と語る。

欧州・中国では普及

 日本では下火になった太陽熱利用だが、岡本社長によると、利用が進む地域がある。欧州と中国だ。
 欧州では86年のチェルノブイリ原発事故の後、各地で大規模な集熱パネルを設置して地域の給湯や暖房の熱源として活用する。中国では大気汚染の克服や農村部のインフラ不足を補う目的で急速に普及が進む。
 国別の利用度ランキングでは中国が圧倒的なトップで、トルコ、米国、ドイツと続き、日本は10位にも入っていない。「かつては太陽熱利用は日本の独壇場だったんだが…」と岡本社長は残念そうに話した。
 現在、日本で太陽熱温水器を設置するのはリピーターがほとんどだが、新たに選ぶ人もいる。
 ファイナンシャルプランナーの加藤勇祐さん(45)は三重県桑名市に3年半前に自宅を新築した際、太陽熱温水器を導入。「冬に快適にしたかった」と、約300万円をかけて集熱パネルを6枚と通常の1、2枚より増やし、給湯と暖房の両方の熱源にしている。
 冬でも晴れた日であれば床暖房で家全体が常時、20度以上の快適な温度に保たれる。寝る時に毛布は不要で、蛇口をひねればすぐにお湯が出る。雨や雪の日に灯油で熱を補う必要があるが、加藤さんは「長い目で見れば回収できる。それ以上に、太陽の恵みで、家中が暖かいという付加価値は何にも代えられない」と語る。
 時代とともに忘れられつつある太陽熱温水器。しかし、取材を通じて秘めたる可能性を感じた。業界の盛衰を見続けてきた岡本社長は話す。「かつては、農家の湯沸かしを楽にする便利グッズだった。時代が変わり、今は脱炭素の切り札へと役割も変わっていくのではないか」


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