『永遠の17歳』が施す笹針…現実での効果は実は疑問【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】
2022年1月21日 06時00分
◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
競馬用語である「笹針」が「永遠の17歳」というパワーワードとセットで注目を集めている。ゲーム「ウマ娘」において笹針を施すキャラクターの実装が発表され、声を「永遠の17歳」である井上喜久子さんが担当しているためだ。
笹針は疲労のたまった競走馬に笹の葉に似た針を刺して、体表から放血させる療法。伝統的に疲労回復を図ることができると信じられていた。近年はこの種の施術が行われるケースはかなり少なくなっている。ゲーム内における設定はともかく、実際の競走馬に関してはその効果について科学的には否定的な見方が強くなっているからだ。
実は人でも、体表から放血させる療法は中世以降、伝統的に行われていた。「瀉血(しゃけつ)」である。「悪い血を抜く」という直観的な根拠に従って、人では18世紀末ごろまで、幅広い疾患への療法として行われていたようだ。
馬では近年まで一応の根拠のようなものが唱えられてはいた。筋肉の疲労は慢性的な筋炎ともみることができる。瀉血によって筋組織に急性炎症をうながし、急性炎症の急速な治癒過程で、慢性的な炎症も道連れ的に治すというものだ。これも現在は机上の空論であるとの見方が主流だ。
人における瀉血は、多血症などごく一部の合理的な症例の対症療法を除いて行われなくなった。医療人でなくても、人の疲労回復を目的とする瀉血を是とする考えはいまやマジョリティーとは言えないだろう。同様に競走馬においても瀉血の疲労回復効果は望めない。
「永遠の17歳」という現象も直観的には同じくらい疑義の目で見られるかもしれない。井上喜久子さんの代表的配役であるベルダンディーが主役の「ああっ女神さまっ」が、最初にアニメ化されたのが1993年。記者の暗算では29年前だが、計算ミスの類いかもしれない。
「永遠の○×歳」は、ほかにも、田村ゆかりさん、堀江由衣さん、水樹奈々さんと、声優業界には枚挙にいとまがない。それぞれ科学的に検証するというのも無粋の極みだろう。したがって笹針の効果と対照的に、こちらは科学的に否定されてはいない。「笹針の効果」と「永遠の○×歳」。科学的により怪しいのは、圧倒的に前者である。
関連キーワード
おすすめ情報