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生徒のチャレンジに10万円! 離島から日本の教育を先導し続ける隠岐島前高校の「フェーズ2」

2022年1月13日 18時42分 (1月13日 18時42分更新)

<連載・未来をつくる学校 #4>

 2022年度に始まる高校普通科改革。教科を横断して実践的に学ぶ「学際」と「地域」をキーワードに、各校が普通科の中に特色ある「科」を設置できるようになる。この動きを先導する存在が、今春に「地域共創科」を開始する島根県立隠岐島前(おきどうぜん)高校だ。離島に集う人の輪を原動力に、存続が危ぶまれた過疎地の高校を再生したモデルとして、多くの自治体や学校が追随している。 (宮崎厚志)

隠岐国学習センター。夜になると隠岐島前高校の生徒が集まってくる=島根県海士町で

 【隠岐島前高校】1955年、島根県立隠岐高校(隠岐の島町)の定時制分校として海士町に開校し、65年に独立。2021年度の生徒数は158人(男女比は42対58)。そのうち90人が島根県外からの留学生。授業料、諸費用に寮費、食費も含めた留学生の総学費は年間で約75万円。公立塾の月謝は1万~1万2000円。

授業のない「公立塾」で

 漁師町の古民家を改修した公立塾「隠岐国(おきのくに)学習センター」に明かりが灯(とも)ると、続々と生徒たちが集まり始める。高校の寮から歩いて数分。黙々と自習に励む生徒もいれば、スタッフに協力を求める生徒も。10人ほどが車座をつくり、夜遅くまで語り合う部屋もあった。塾と言っても授業はない。高校と連携し、個人の探究学習や大学のようなゼミ形式の学習に力を入れる。スタッフが生徒から受けた進路相談の内容は学校とも共有し、大人へと近づく生徒たちに寄り添い、後押しする。
 「大人も挑戦している、想像以上に魅力的な環境。毎日が刺激的です」。岐阜県各務原市から入学した1年の武田奈南さんは声を弾ませた。

「人生劇場」と呼ぶインタビュー企画。聞き取った話を基に、夜遅くまで本音の語り合いが繰り広げられる=島根県海士町で


地域を題材に、広い視野で学ぶ

 生徒の約7割が通うセンターを運営するのは、海士(あま)町、西ノ島町、知夫(ちぶ)村の島前3島の自治体でつくる魅力化財団。高校に常駐する3人のコーディネーターらの雇用も担う。彼らの最大の役割は、地域と生徒をつなぎ、教員とともに地域を題材とした課題解決型学習や、探究的な学びをサポートすることだ。

社会科系の独自科目「リベラルアーツ」の時間。「島への移住者を増やすには?」というテーマで話し合う生徒たち=島根県海士町の隠岐島前高校で

 そうして学校が設定した科目の1つが「地域地球学」。3年の藤井杏奈さんは、米を無農薬で栽培する農家の要請を受け、貝殻などの自然素材を使った害虫駆除薬を作った。「害虫には効いたけど、病気やカビは防げず、1つの解決策しか出せなかった」と悔しがった。国際的(グローバル)な視野で考えながら、地元(ローカル)から実践していける「グローカル人材」の育成を、高校は掲げる。学力とともに主体性を育まれた生徒たちは、大学入試の推薦や総合型選抜に強いという。

「島前高校チャレンジファンド」の募集ポスターを見て話し合う生徒たち=島根県海士町の隠岐島前高校で

改革止めず「チャレンジファンド」「地域共創科」

 15年にわたって魅力化を進めてきた結果、海士町には移住者が増え、人口減少に歯止めがかかりつつある。学校経営補佐官の大野佳祐さんは今、「大きくフェーズが変わった」と話す。県外からは年々、向上心の強い生徒が集まるようになり、触発された地元の生徒も成長する。昨秋には生徒の「本気の挑戦」に財団が10万円まで支援する「チャレンジファンド」もスタート。2年時から実践的に地域と関われる時間を週に6時間確保した「地域共創科」の設置も、自然な流れだった。
 人への投資が地域を持続可能にし、さらには成長へ。小さな島と高校の挑戦は続く。

海を見下ろす丘の上に建つ隠岐島前高校。右から寮、体育館、校舎、レスリング場 =島根県海士町沖で

 廃校は地域の危機 特色打ち出し魅力化 隠岐島前地域のように、高校が廃校になれば地域が廃れるという危機感から、地元の高校を魅力ある学校にし、広く生徒を集めようとする過疎地の自治体は増えている。内閣府による「高校生の地域留学推進のための高校魅力化支援事業」には2021年度、全国で15校が採択された。中部地方では石川県能登町の能登高校、三重県大台町の昴(すばる)学園高校が選ばれている。いずれも地域を題材とした探究学習などのカリキュラムの創設や、寮、公営塾の併設などが特徴で、採択校以外にも長野県白馬村の白馬高校や、静岡県川根本町の川根高校などが取り組んでいる。


【コーディネーター・宮野準也さんからのメッセージ】


 卒業する時に、「私はやればできるんだ」という気持ちを確信に近い状態で持っていてほしいですね。それを裏付ける経験の機会をつくることが私たち大人の仕事。探究の授業でも寮生活でも学習センターでもいい。経験を学びに変える力を生徒たちは持っています。

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