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【がんがつなぐ足し算の縁】笠井信輔(1)「生きる覚悟」

2022年1月11日 05時00分 (1月11日 12時34分更新)

 「私の母はあなたと同じ病気でした。なぜあなたは元気で、私の母は亡くなってしまったのでしょうか? テレビで『元気になった』ともう言わないでください」
 これは、悪性リンパ腫を患って四カ月半の入院後、社会復帰した私に対して送られてきたメッセージです。丁寧なお手紙でかなりショックでした。
 「私の元気な姿を見たくない人たちがいる。発信せずに、おとなしくしてた方がいいのだろうか」と悩みました。
 小倉智昭さんと一緒に朝の情報番組「とくダネ!」を担当し二十年。小倉さんは膀胱(ぼうこう)がんに、私は血液のがんになりました。番組のメイン司会者が二人とも「がん」。こんなことってあるのだろうか?と信じられない気持ちでした。

情報番組「とくダネ!」を一緒に担当した小倉智昭さん(右)と。小倉さんは膀胱がんに、私は血液のがんになった

発信することに葛藤あったけれど

 私はフリーになってからSNSのインスタグラムを始めましたが、がんを公表すると、それまで三百人だったフォロワー(登録者数)が三十万人にもなりました。もちろん私の人気ではありません。「がん」です。
 毎年百万人もの人が新たにがんになっている時代なので、皆さん、どこかで気にしているのでしょう。がんのイメージってやはり「死」。昭和時代からあまり変わっていないんですよね。
 だから、「笠井はどうなるのか」と、フォローしてくださるのだと思います。

 「ステージ4。全身にがんが散らばっていて、特殊ながんのタイプなので通常の治療法では効果がないかもしれない」という主治医の診断で、さすがに「死ぬのか」と私もあきらめかけた時期もありました。  
 こんなに充実した人生だったので、幕を少し早く引くことになってもジタバタするのはやめようと、「死を受け入れよう」と考えたこともありました。
 ところが…。
 私のブログやインスタグラムに「私も笠井さんと同じがんです」「私の家族も今がんと向き合ってます」「私も抗がん剤治療をしています」と、がん仲間やご家族の皆さんからのメッセージがとてもたくさん寄せられるようになったのです。

一緒に闘う人を失望させたくない

 「私が死んでしまったら、気持ちの上ではすでに一緒に闘っているがん患者の皆さんやそのご家族を悲しませ失望させることになるのではないか」「抗がん剤は効かないんだ。悪性リンパ腫ってダメなんだ…」。そんな誤ったメッセージを発信してはいけないと考えるようになったのです。「私は死んではいけないんだ」と。
 私はよく「笠井さんに励まされた」と言っていただけるのですが、本当は、がんになったことでつながれた皆さんに私の方が励まされてきたのです。
 ですから、そのご縁を大切にしたいと、患者会や交流会に顔を出すようにしています。
 がんになったのは仕方のないこと。だったら「がんになったからこうなれた!という人生にしよう」。私はそう考えて病と向き合っています。そうすると、がんになったからこそ生まれた「足し算の縁」を大切にでき、人生が違って見えてくるんです。
 さらに、最新の医療現場はどうなっているのか? 患者はどうすれば適切な医療を受けられるのか? 快適に入院生活を送るコツは?
 私はコロナ時代のがん患者第一号として、さまざまな体験をしてきたので、自分の経験をお伝えすることで皆さんのお役に立てるかもしれない…と思い、今回、この連載をスタートさせていただくことにしました。
 これからどうぞよろしくお願い致します。(次回は二十五日付です。)

笠井さんと親交 がん患者で緩和ケア医の大橋さん


人とのつながり プラスに



 ステージ4の希少がんと闘う海南病院(愛知県弥富市)の緩和ケア医、大橋洋平さん(58)=写真=は昨夏、笠井さんと対談した。自身も発症後の2019年から年1冊の頻度でエッセーを出版しており、ブログなどで闘病体験を発信する笠井さんと意気投合した。他者とつながり、誰かの役に立つことは、何より自分自身にプラスになると強調する。(聞き手=編集委員・安藤明夫、細川暁子) 
 笠井さんと対談した際、患者に「頑張って」と声を掛けるのは是か非かという話になりました。医療界では、患者の重圧になるから良くないという考え方が伝統的。でも笠井さんは「僕は『頑張って』と言われたいタイプ」とおっしゃいました。本人が「頑張りたい」と思っているならOKと私は考えていたので、うれしくなりました。
 笠井さんが患った悪性リンパ腫の化学療法は壮絶です。でも、そんな中でブログを開設して日々の思いを発信した笠井さんは、まさに「頑張って」こられた。
 その原動力は「使命感」だと思います。著名人である笠井さんの発信は周囲に大きな影響を及ぼし、多くの人を励ますことができる−。このことは、自分自身にも力をもたらしてくれます。
 体が弱ると、「迷惑をかけるばかりで、何もできない」と思いがちです。でも、誰かの役に立つことがある、できることがあると感じられれば勇気や元気が湧いてきます。「生きる意味」を取り戻せるんです。
 病による体や心の苦しみは、医療者に取り除いてもらうのが一番だけれど、患者自身が物の見方や捉え方を変えることで心が軽くなることもあります。私は胃の切除後、栄養剤を飲む以外は全然食べられなくなり、すごく焦りました。でも「半年間も食べられなかったけど、生きてきたよな」って考えたら焦りが消え、だんだん食べられるように。私が「気ぃ楽に」と呼んでいる作用です。
 思ったことを文章にまとめる作業にも、同様の効果があります。笠井さんがブログを通じて他者とつながり、誰かを勇気づけたり、励まされたりしたことは、治療にもプラスになったと想像します。患者の生き方、価値観は一人一人違って正解はないけど、他者の存在を感じられるのは、とても大事です。
 私は「余命」という言葉が持つ「死へのカウントダウン」といった感覚が寂しくて、「足し算命」と言い換えています。笠井さんも「足し算の縁」を大事にしていて、共通点も多そうです。連載の中で、いろいろなつながりを感じられることを楽しみにしています。
 かさい・しんすけ 1963年生まれ。フジテレビのアナウンサーとして情報番組「とくダネ!」などを担当。フリーになった直後の2019年、血液のがん「悪性リンパ腫」のステージ4と診断された。現在は、がんが体から消える「完全寛解」の状態。
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