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「関係ない」と言わぬ人

2022年1月10日 05時00分 (1月10日 05時00分更新)

 愛知県大府市の至学館大学は、同市と結んだ「選挙啓発に関する協定」に基づいて、国政、地方を問わず、選挙のたびに学内外に期日前投票所を設置しています。
 「国や社会の問題を『自分ごと』としてとらえ、自ら考え、行動できる人」をはぐくむ「主権者教育」の一環です。
 投票を呼びかけるだけではありません。投票所の設営、管理、運営、後片付けまで、すべて学生が手掛けます。担当は「健康・スポーツ史」のゼミ生です。
 ゼミを指導する越智久美子准教授は「近現代史」を専攻し、至学館の前身である中京女子大の「百年史」を執筆、編纂(へんさん)した人です。
 取材の過程で、先の大戦末期、名古屋市内の軍需工場に勤労動員されていた当時の中京高女の学生三十四人が空襲の犠牲になったことを知り、衝撃を受けました。

「自分ごと」と考えて

 そして戦争を生き延びたある先輩の証言が、主権者教育に取り組むきっかけになりました。
 「軍需工場といえば空襲の標的です。そんなところにいることは、恐ろしくなかったですか」と越智さんが尋ねると、その人は言いました。
 「はじめはちっとも怖くなかった。何も知らなかったから。自分には関係ないと思ってた。家を焼かれ、家族を失い、ようやく震えが来ましたよ。その時にはもう手遅れでした」
 越智さんは考えます。
 「温暖化も原発事故もコロナ禍も、知らなかった、関係ないでは済まされない。今を生きる若い人には、過去に学び、今にかかわり、未来を創造する人になってほしい。それが主権者。そのための一票です。一票は微力かもしれません。でも決して無力ではありません」
 無関心といわれる若い人たちに、選挙の内側に入ってもらい、一票の力を感じてもらうのが、演習の狙いです。
 越智ゼミが昨秋の衆院選後に実施したアンケートの結果によると、至学館の学生全体の学内外の投票率は49・8%。年齢別では十八歳が58・2%と最も高く、なぜか二十歳が43・1%で、最も低いという結果。いずれにしても、全体として全年代の55・9%には遠く、ゼミ生たちには物足りません。
 「インスタグラムを活用したい」「マイクロバスに投票箱を載せて、市内を巡回できないか」…。夏の参院選に向け、投票率アップのアイデアを競い合うゼミ生たち。選挙を「自分ごと」と考えるようになった若者たちを、越智さんは「おとなになった」と感じています。
 ついこの間まで「選挙に行く」ということは「おとなになった」と同義語でした。しかし、六年前に改正公職選挙法が施行され、投票権を持つ年齢が二十歳から十八歳に引き下げられました。そしてこの四月には、成人年齢そのものが十八歳に改められることになっています。
 ならば成人式も、と思いきや、受験生への影響などを考慮して、来年も二十歳のままという自治体が大半です。飲酒年齢も今のまま。「おとな」の定義がますます、あいまいになっていくようです。
 「おとなって何でしょうね」と越智さんに聞いてみました。
 「十八だろうと二十歳だろうと、そう簡単には『関係ない』と言わないようになった人、でも言うべきことは言うべき時に言える人…かな。選挙権の行使もその一つだと思います」
 ゆっくりと言葉を選んで答えてくれました。

響き合う人がいるから

 さて、新成人の皆さん、おめでとうございます。
 今年も書家でタレントの矢野きよ実さんに、「贈る言葉」をしたためていただきました。
 「響けよ 叫べ 君の声」
 「一人の声は小さな声だが無力じゃない。声を上げればきっと、受け止めてくれる人がいる。響き合い、ひとつずつ未来を変える力になる」
 そんな詞書(ことばがき)を添えて、お届けします。

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