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ダービー馬ワグネリアンの急死…馬の『胆石症』はまれな症例 後の馬たちを救う礎となってくれれば

2022年1月7日 06時00分

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ダービー馬ワグネリアンの馬上で涙をふく福永=東京競馬場で

ダービー馬ワグネリアンの馬上で涙をふく福永=東京競馬場で

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」
 年頭から残念なニュースが飛び込んできた。2018年のダービー馬ワグネリアンが5日、急死した。
 「胆石による多臓器不全」という。胆石症は人では割とポピュラーな病気だが、馬ではまれだ。生前に確定診断されることが少なく、論文データベース(PubMed)で「馬 胆石」にあたる英語でヒットした文献はわずか6件。外科手術で助かったという報告も1例あったが、一般状態が非常に悪くなって予後を諦めた後、病理解剖で初めて胆石が発見されるというものがほとんどだ。症例がまれなのにも、診断が難しいのにも共通した理由が1つ。馬には胆のうがない。
 胆石は胆汁の成分が固まったものだ。胆汁は脂質の消化吸収に関与する。糖やタンパク質(の分解産物であるアミノ酸)は、そのまま腸壁を通過して取り込まれるが、脂質は科学的特性からして、そのままでは吸収効率がかなり低い。胆汁酸は脂質と結合して腸壁を突破する効率を上げる働きがある。
 馬は草食獣。食餌(しょくじ)に含まれる脂質は野生状態ではかなり少ない。栄養として利用する脂質の大部分は、発酵槽である盲腸や結腸で生じた揮発性脂肪酸だ。これらは同じ脂質でも、例えば人が食物からイメージする脂肪よりも分子量がかなり小さく、そのままでも腸壁を突破しやすい。多くの動物では、食餌に合わせて胆のうから胆汁をまとめて消化管に放出するが、馬ではこれが本来的に不要だ。
 こうした事情から、馬の胆汁は肝臓でつくられ、小出しに消化管に供給され続けている。胆のうがないので、胆石ができるのは、胆汁生成現場の肝臓か、消化管までこれを運ぶ胆管。場所が絞りにくい分、発見もしづらい。人の胆石症ではしばしば痛みがあるようだが、馬の少ない症例報告では疝痛(せんつう)で気付けることも少ないようだ。慢性的な体重減少を挙げる文献もあったが、肝臓周囲では肝腫瘍や肝硬変など、ここから先に疑うべき他の疾患も多い。
 ワグネリアンに関しては不運の一語に尽きるが、貴重な一症例として、後の馬たちを救う礎となってくれることを祈りたい。

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